あいりん地区に見る「生活保護のパラドクス」 日本が直面する「社会的孤立」がここにある
あいりん地区に暮らす者たちが日雇労働に従事していたときは、流動性の高い生活を送ることが多く、不関与規範を守りやすい状況であった。一方、彼らが生活保護を受給すると基本的に定住生活へと移行することになる。こうした生活環境の変化は、従来のあいりん地区で見られた不関与規範を揺るがす。あいりん地区で生活保護受給者の聞き取り調査をおこなった石川翠氏は、生活保護を受給することによって社会的孤立が生じてしまうことを「生活保護のパラドクス」と呼び、以下のような事例を紹介している。
「不関与規範を土台とする関係から、一歩踏み込んだ関係になれば、『過去』に触れられる恐れがあることに加えて、定住生活ゆえにこれからも何度も顔を合わせることになるだろうことも意識をせざるをえない。それゆえトラブルになれば、これからのアパート内での生活がしにくくなるだろうと先取りして考えるのである。このように住宅内で関係規範の変容を迫られると、転居したり引きこもったりすることによって社会的孤立に至ることが少なくない」(西川勝編『孤独に応答する孤独』)
ひとごとではない
あいりん地区の社会的孤立が深刻化するなかで、民生委員(厚生労働大臣から委嘱された非常勤の地方公務員)や社会福祉協議会(社会福祉活動の推進を目的とした民間組織)の積極的関与が期待されるが、現状では十分に機能していない。というのも近年、生活保護の受給などを契機にあいりん地区に定住するようになった人々は、基本的に町内会に加入しておらず、民生委員や社会福祉協議会が彼らの生活実態を把握しづらい状況にある。
劣悪な住環境、生活保護受給者の増加、身寄りのない最期など、このエリアが直面している課題は、全国の地域社会にとっても他人事ではない。全国に先駆けて顕在化する課題は、今後の日本社会が直面する問題でもある。
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