あいりん地区に見る「生活保護のパラドクス」 日本が直面する「社会的孤立」がここにある

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あいりん地区が所在する西成区の2014年10月時点の高齢者数は約4万5000人を数え、高齢化率は38.3%にも及ぶ。同年同月の大阪市全体の高齢化率は24.9%であることから、西成区の高齢化率がいかに高いかがうかがえよう。

あいりん地区の高齢化率は西成区のそれよりさらに高く約40%にもなる。しかも、単独世帯が住民の大半を占める。以上のことから、一人暮らし高齢者出現率は西成区の平均をはるかに上回ると考えられる。

「労働者の町」から「福祉の町」。あいりん地区が変容したとされる背景には、生活保護受給者の増加と高齢化がある。高度経済成長期からバブル経済期にかけて、あいりん地区は簡易宿泊所が増加し、親族世帯が地域内から姿を消しはじめた。これによって人口の再生産構造が崩壊し、年少人口が激減した。

社会的孤立が深刻化

近年のあいりん地区は社会的孤立のリスクが極めて大きい。社会保障政策の専門家である藤森克彦氏は東京都港区社会福祉協議会による社会的孤立に関する調査を参照し、「緊急時に支援者がいない」と回答する単身高齢者は、前期高齢者、男性、未婚者、低所得者、賃貸住宅居住者であると指摘している。

これらの特徴はすべてあいりん地区の近況に当てはまる。あいりん地区で暮らす人々の多くはこれまで住まいを転々としてきており、地域に十分な社会関係がない。大阪就労福祉居住問題調査研究会が2006年に刊行した調査報告書「大阪市西成区の生活保護受給の現状」によれば、野宿経験を有するあいりん地区の生活保護受給者の23%が近隣関係、友人関係、相談相手のいずれももっていない。

同報告書によれば、大半の生活保護受給者がグループ活動・社会活動に参加していない。彼らは生活保護の適用などで、ようやく社会福祉制度に包摂されるようになったが、社会関係からは依然、排除される傾向がある。

あいりん地区のメインストリート。高齢男性が目立つ

1975年の時点であいりん地区の女性人口は全体の約30%を占めていたが、その後の居住空間の変容などによって2010年の時点では約15%となっている。この間に親族世帯はどんどんあいりん地区から転出していき、単独世帯化が進んだのだ。女性と子どもがほとんどいなくなった昨今のあいりん地区は、人々を結びつけ、相互扶助機能を高める契機が乏しくなっている。

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