あいりん地区に見る「生活保護のパラドクス」 日本が直面する「社会的孤立」がここにある

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通常、生活保護を受給するとケースワーカーのサポートを定期的に受けることになる。しかし、これをもって社会的孤立が回避できるわけではない。なぜなら、西成区はほかの自治体に比べて生活保護受給率が著しく高いことから、ケースワーカーの担当世帯数が極端に多く、きめ細かいサポートが困難だからだ。

互いの過去に踏み込まない

あいりん地区の生活保護受給者の多くは、三畳一間の部屋で暮らしている

高齢者が子世代と同居することが一般的でなくなった現代の日本では、配偶者を失った後、高齢期を単身で過ごすことは珍しいことではなくなっているし、未婚率も年々上昇している。2010年の生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚をしたことのない人の割合)は、男性が約20%、女性が約10%となっているが、国立社会保障・人口問題研究所によれば、2030年には、それぞれ10パーセント程度上昇する見込みだ。

このように社会的孤立は誰にでも起こりうる社会問題だが、あいりん地区のそれは「長期性」に特徴がある。あいりん地区に暮らす単身男性は長期にわたり親族との関係を絶っている場合が少なくないのだ。理由はさまざまだが、あいりん地区で日雇労働をしていることやホームレス状態であることを親族に伝えられず、疎遠になっているケースが多い。また、度重なる転居によって親族と連絡がつかなくなってしまったケースも目立つ。いずれにせよ高齢期に入る前から彼らの多くは社会的孤立のリスクにさらされてきたといえるだろう。

日雇労働者の就労斡旋などを行う「あいりん総合センター」。バブル崩壊以降、長らく閑散としている

もちろん、あいりん地区に暮らす単身男性が皆、社会的孤立に陥るわけではない。日雇労働であったとしても、日常的に仕事に従事しているときは、それを通じて一定程度の社会関係の構築ができただろう。しかし、生活保護受給者となり、就労する機会がなくなってしまうと社会的役割の喪失や居場所の不在が新たな問題として浮上する。

通常、生活保護受給は、住居の確保と最低限度の生活の維持を可能にすることから、社会関係の安定化に寄与しそうなものだ。だが、あいりん地区では逆説的に生活保護受給が社会的孤立を生み出すことがある。その理由となるのが、あいりん地区をはじめとする寄せ場に特徴的な社会規範(特定の社会や集団のなかで期待される行為・行動)である。

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