あの新幹線メーカーが米国市場で陥った窮地

期待の準高速2階建て試作車が「試験不合格」

2012年にカリフォルニア、イリノイ、ミシガン、ミズーリの米国4州は共同で準高速鉄道用2階建て客車130両を2016年夏から2018年夏にかけて導入することを決めた。契約窓口となっているカリフォルニア州交通局は、「同州では2000年以降の2階建て車両の新規導入がなく、老朽化した車両を更新する必要があったこと、利用者の増加に対応すべく車両数を増やす必要があったこと」などを理由に挙げている。

豊川工場で製造中の新幹線車両(撮影:今祥雄)

オバマ前政権の景気刺激策である米国再生・再投資法が適用されるため、車両調達に必要な資金のうち75%が連邦政府からの補助金で賄うことができる。その代わり、メーカーには米国内ですべての部品や材料を調達して製品を組み立てなければならないという厳しい制約が課された。

最終入札には5社が参加し、日本車両の受注が決まった。当局が客車130両の価格を5億ドル強と想定していたところ、日本車両がそれを3割も下回る3.5億ドルで入札したことが決め手になったようだ。なお、客車を牽引する機関車35両については4州にアイオワ、ワシントン、オレゴンを加えた7州が共同調達し、入札の結果、シーメンスが受注している。

工場の建物面積も7割拡張

客車を導入する米国4州にはオプション契約として300両の追加発注権がある。合計すれば430両。生産量の増加に対応するため、日本車両は2013年にイリノイ州にある工場の拡張に踏み切った。建物面積を4.3万平方メートルから7.3万平方メートルに拡大する大掛かりなものだ。

米国では、2008年の旅客鉄道投資および改善法に基づき、製造コスト削減を目的とした鉄道車両の仕様標準化が求められている。今回製造する車両が今後スタンダードとなれば、将来の同タイプの車両受注において価格面でがぜん優位に立てる。日本車両にはこんな甘い期待もあった。

だが、そんな期待も車両の試作段階であえなくしぼんだ。2015年に製造したプロトタイプ車両が、連邦政府の定めた衝突時の衝撃吸収基準をクリアできなかったのだ。

なぜ、初歩的な設計ミスを犯したのか。まず考えられるのは、日本と米国の安全思想の違いだ。日本では信号や運行管理システムを使って列車同士の正面衝突を回避するようにしているが、米国では列車同士が正面衝突する可能性を前提に鉄道車両の強度を含めた対策を決めている。もっとも、日本車両はこれまでも米国に2階建て車両を納入しており、そんなことは先刻承知だろう。

次に考えられるのは、今回の車両は準高速車両であり、最高時速200キロメートル程度と想定されている点だ。これまで日本車両が米国向けに製造してきた車両の最高速度は時速126キロメートル。つまり、速度の違いが衝突時の強度計算に影響を与えた可能性がある。

さらに今回の車両は、米国製部品の100%使用、車両の仕様の標準化、メンテナンスをしやすい車両にするなどの諸条件がついている。そのため過去のノウハウが役に立たなかったのかもしれない。

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