そして「トランプ主義」は、米国の雇用回復だけではなく、米国の支配を拡大するシステムの創出をも目標としている。トランプ大統領らは「われわれは自身にもっと目を向けるべきだ」と繰り返し主張しているが、そういった姿勢では、米国が世界秩序維持を通じて恩恵を受けてきたわけを理解することなどできない。
米国が世界で最も経済的な成功を収めているのは明らかだ。米国の中産階級は世界的な基準から見て豊かになり続けている。民主党のバーニー・サンダース氏は、デンマークの生活水準は素晴らしく、政策の多くは正しいと賞賛したが、人口560万人に過ぎないデンマークが民族的に見て比較的均質で、移民への寛容度が非常に低い実情には触れなかった。
良きにつけ悪しきにつけ、グローバル化の開始からは長い年月が過ぎた。ニクソン元米大統領が訪中した1972年以前に時代を巻き戻すことなどできない。中国の運命と世界におけるその役割は現在、中国の人民と同国指導者の手に委ねられている。トランプ政権は中国との貿易戦争開始を通じて時計をリセットできると考えているのかもしれないが、そんなことをしても逆効果なだけだ。
トランプ政権は今のところ、かねて提唱していた自由貿易反対論をメキシコに押し付け、国境に壁を築くと表明しただけだ。中国とは論争を通じたスパーリングを繰り広げるにとどまっている。
米国が中南米の隣国に思慮に欠ける態度を示し続ければ、長期的には反米感情が高まり、米国の国益を傷つける結果となる。トランプ政権がこんなお粗末な姿勢を中国に示せば、思わぬ事態に見舞われるだろう。
相手が大きすぎる
中国は数兆ドルもの米国債を「金融兵器」として保有している。さらに、米中貿易に混乱が生じれば、ウォルマートやターゲットといった、米国人の多くが頼りにしている安売り店で、商品の値段が急騰する恐れがある。
また、台湾からインドにまたがるアジア地域は、中国の軍事的進出に対してぜい弱だ。現時点では中国軍はさほど強くはなく、米国と戦っても勝てない公算が大きいが、中国は空母を保有するなどして軍事力技術を高めており、状況は変わりつつある。
仮に米国が中国との貿易戦争に勝てたとしても、失うものはあまりに大きい。米国がアジアの同盟国を守り、北朝鮮の脅威を抑えるには、中国と熱心に交渉する必要がある。トランプ氏にとって最善の策は、破壊的な貿易戦争ではなく、中国とのよりオープンな貿易政策を追求することなのだ。
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