――行き帰りで違う機関車になったのはなぜでしょう?かえって手間なのでは?
山中「ブライダル列車は4両編成で、C56形44号機を使うと補機(補助の電気機関車)が必要なのですが、往路は最後尾が展望車のため、後ろに補機を付けるわけにはいかないのです。また、SLと客車の間に補機を連結すると蒸気を客車に送ることができず、暖房が使えなくなってしまいます。そこで日本旅行の提案として、往路は補機なしで5両まで牽引できるC11形190号機、復路は(最後尾に補機を連結して)C56形44号機としました。このような面倒な運用を引き受け、本来費用が発生する電気機関車の回送費用を、新郎新婦のC56への思い入れに免じて無料にしてくれた、大井川鐵道さんには本当に感謝しております」
なるほど、そういうことだったとは。往復ともC56の牽引にはできない事情があることから、往復で違う機関車の牽引になったのだ。やっと理解できた。
大井川鐵道の山本さんにも今回の運用について伺ってみた。
――大井川鐵道はなかなか大変な運用をしないとならなかったわけですね。その辺は大丈夫だったんでしょうか?
山本「お客様のご要望はなるべく叶えたいですね。ブライダルトレインに乗ったことで今まで鉄道を利用されなかった方がこれからのお客様になってくれるかもしれない。『人にやさしい』が会社のモットーでもあるんです」
――ブライダルトレインの企画について、最初に提案を受けた時はどう思いましたか?
山本「最初は無茶だと思いました。イベント会社ではないので、そこまでのイベントには慣れていないですし。でもこの企画は、事務的なことは日本旅行さんがやってくれますし、うちには客車や物販部門、お弁当部門など揃っているので、できないことはない。それで『やってみよう』ということになりました。会社の体質として『無理』とすぐ決めつけない柔軟性があると思います」
沿線から祝福される結婚式
関わっている人々全てが、相手の喜ぶ顔を考えてこの日を作りあげている。強くそう感じた。最近の観光列車でも、沿線の方々が手を振ったり温かい対応をしてくれたりする所も多いが、ブライダルとなるとまた格別だ。これだけ周りから祝福される結婚式は、本当の一生の思い出になるだろう。
ブライダルトレインが到着した新金谷駅には、次に申し込んだ5組目のカップルが様子を見に来ていた。パッケージ化で想定されていなかった部分が、どんどん広がるのもおもしろい。ちなみに、だいたいは旦那さんが鉄道好きで下見に来るものの、すっかり気に入って申し込みをするのは奥様の方だそうだ。
私も今回乗せていただいたことで、ブライダルトレインの段取りをだいぶ理解した。ある意味、下見ができたようなものだ。もし私が結婚する時は、司会進行役はあの人、カメラマンはあの人に頼もう。あの人なら素晴らしい走行写真も撮ってもらえるに違いない…といろいろ妄想した。なんといっても鉄道関係者にはたくさん知り合いがいるので、人材には事欠かない。
しかしどうにも肝心のお相手だけが想像できないのであった。
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