小田原・生活保護「SHAT」問題はなぜ起きたか 市職員が語る、知られざる「経緯と背景」
不適切な文言は背中にもある。ひときわ大きな「SHAT」の文字は、不正受給を許さない「生活・保護・悪撲滅・チーム」の略称という。さらに、英文で次のような“決意表明”が綴られている。
《私たちは正義で正しくあるべきだ。そして小田原市民のために力を尽くすべきだ。不正を見つけたとき、追及し、正しく指導する。不正受給をし、市民を欺くのであれば、私たちはあえて言おう。不正受給をするような人はカスである、と》
言うまでもなく不正受給は許されない。一部の不届き者のせいで、懸命に生きるまじめな受給者が白眼視されるようなことがあってはならない。しかし、受給者の生活再建などを支援する職員が背中で不正受給者を「カス」呼ばわりし、「保護なめんな」と主張するのはいかがなものか。
「窓口に出るのが怖くなった職員もいた」
市職員側の言い分はこうだ。少なくとも「なめんな」については受給者や不正受給者に向けた言葉ではない。生活保護の担当職員が「自分たちは仕事にプライドを持って頑張っているんだ」と市庁内の他部署の職員に向けてアピールしたメッセージだという。
「受給者には問題を抱えている人が多い。粗暴な人もいる。生活指導中に暴言を吐かれて心が折れてしまう職員もいる。そんな状況下で“切りつけ事件”が発生したんです」(前出の栢沼課長)
2007年7月15日、保護費支給を打ち切られた当時61歳の男性受給者が市の窓口に怒鳴り込み、男性職員3人に軽傷を負わせた。ひとりは持っていた杖で左腕を打たれ、別の職員は懐から取り出した業務用カッターナイフで左わき腹を切りつけられた。カッターを取り上げようとした職員は手にケガを負った。
「切りつけた男性は不正受給者ではありませんでした。賃貸アパートの大家とトラブルになり、契約更新できなくなった。住居がないと生活保護を受けられなくなるので“無料低額宿泊所”を案内した。ところが、入所に必要な面談に来ず、生活実態がつかめなくなったため、保護費支給を止めました。それに激高したんです」(栢沼課長)
目の前で起きた襲撃事件に、窓口に出るのが怖くなった職員もいた。市は職員の命を守るため、庁舎に警察OBを配置し、生活保護などの窓口近くには刺股を置くようになった。「悪を許さない」という意識が高まったという。
「事件の数か月後にジャンパーをつくっています。他部署の職員から“あんなところに異動したくない。切りつけ事件まで起こり、ごくろうさんなことだ”と思われるのが嫌だった。必ず異動希望者が出る不人気部署なので担当職員を鼓舞する狙いだった」
と前出の栢沼課長は話す。