英FTの「特命編集者」は何をやっているのか 実験的なコンテンツで未来を模索

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特別プロジェクトの一部は、編集部にとって優先度の高いニュースに関連するものだ。たとえば、英国EU離脱の賛否を問う国民投票に関連して、離脱キャンペーンを率いた政治家のナイジェル・ファラージ氏が投票結果を知る瞬間を360度動画でライブストリーミングする、という企画がそうだった。

ロビン・クウォン氏

「出来の点では、みじめな失敗だった」と、クウォン氏は振り返る。「だが実験の観点では、めざましい成功だった」。安定しないWi-Fiのせいで、解像度が低く途切れがちの動画は、わずか5秒のストリーミングのあとに打ち切られた。

それでもFTが満足しているのは、おかげで今後、360度ライブストリーミングを行う際に使える、12項目の詳細なチェックリストを得たからだ。項目のいくつかは単純な運用上の指針で、たとえば、YouTubeのコメント欄は監視する人員が必要なので、人手不足ならコメント機能は無効にする、といったものだ。

デザイン上の重要な教訓

継続が決まったプロジェクトもある。FTは、ロボットウィーク(ロボットに関する連続記事)や人身売買などのテーマで、連続記事や特別プロジェクトのオンラインハブを開設。これらから得た教訓をもとに、プロダクトチームは公式サイトのトピックごとのページに改良を加えた。リニューアルされた同社サイト(FT.com)は昨年10月にローンチした。

「読者はどこからたどりついたか(SNSか、検索か、直接か)にかかわらず、関心のある記事から直接次の記事へと読み進める。あいだに一旦ランディングページに行ってから次に読む記事を探したりはしない」と、クウォン氏は語る。「デザイン上の重要な教訓は、記事ページから次の記事にどうやって読者を誘導するかを入念に検討する必要がある、ということだ」。

将来的に、FTはビジュアル重視の記事を増やす計画だ。しかし、記者の大半は絵コンテづくりの経験などない。企業文化、記事作成のプロセス、ワークフローは否応なく変化するだろう。記者たちは今後、速報や、記事の構想段階でのカメラマンとの共同作業を増やすことを余儀なくされるはずだ。

例として、シリアの油田から採掘された原油の行方を追った記事をみてみよう。5週間にわたり、記者たちはFTの地図作成専門家とともに、地図とデータ表をひとつにまとめるのに何が必要かを入念に検討した。記事が完成したのは発行の3日前だ。以前の記事作成プロセスはこれとは逆で、記者は何週間もかけて記事の文章を書きあげ、公開の数日前にグラフィック担当に渡し、画像の選択はお任せだった。

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