実は、実業家時代のトランプ氏は、ニクソン氏から手紙をもらったことがある。1987年12月のことだ。この手紙の中で、ニクソン氏は、元ファーストレディーの妻が、テレビ出演をしていたトランプ氏を「素晴らしい」と語ったと伝え、「トランプ氏が選挙に立候補すれば勝つ」と称賛した。トランプ氏はこの手紙を大切に保管し、現在はホワイトハウスの執務室に飾っている。
また、トランプ氏は、そのニクソン政権で、国家安全保障問題担当大統領補佐官や国務長官を歴任したキッシンジャー氏とも選挙中からたびたび会談してきた。中国との歴史的な和解を実現させるなど、米国の利益を最優先に置いた「現実主義の外交」を貫いたキッシンジャー氏から教えを乞うている。
トランプ氏の国家安全保障問題担当の大統領副補佐官には、キッシンジャー氏の側近で、FOXニュースのコメンテーターも務めた女性の保守論客、キャスリーン・マクファーランド氏が就いている。このため、トランプ政権には、新設の国家通商会議(NTC)のトップに指名されたピーター・ナヴァロ氏といった対中強硬派が多い一方で、ニクソン政権下のキッシンジャー外交戦略を受け継ぎ、米中融和を目指すのではないかとの見方もある。
中国に対しても揺さぶり
トランプ大統領は就任前、正式な外交関係がない台湾の蔡英文総統と異例の電話会談を実施し、「台湾は中国の一部」だとする中国政府の「1つの中国」政策の見直しを示唆した。そして、台湾問題を核心的利益とみなす中国政府の強い反発を招いた。
結局、9日の習近平国家主席との電話会談で、「1つの中国」の政策を尊重することで合意したが、トランプ政権はこの「1つの中国」問題を材料にし、中国に為替や通商面で米国の要求に応じるようゆさぶりをかけたとみられている。
前述のワシントンポスト紙の記事は、トランプ大統領の蔡総統への電話が突発的なものではなく、事前に十分に計画された計算尽くしのものだったと指摘している。
米国などとの環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)締結交渉にあたった甘利明前経済再生担当相もこうした見方に与する。甘利氏は10日夜のBSフジ番組「プライムニュース」で、「トランプ大統領は割とその時の思い付きで、極めて重要なことに簡単に触れるように言われがちだが、相当したたかにスタッフが戦略戦術を仕組んでいるのではないかという見方がある」と指摘した。
さらに、「あの大統領だから本当にやりかねないという雰囲気の中で、一番中国が嫌なことをあえてぶつけておいて、ある種、観測気球のように、貿易赤字の解消について真面目に取り組む意志があるのかどうか、踏み絵を踏ませながら行っている戦術ではないか」と述べた。
日本政府には、トランプ大統領の度重なる批判や挑発に踊らされることなく、「マッドマン・セオリーに基づくトランプ政権の次なる手」を見抜く眼力が必要とされているのである。
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