ソニー「巨額減損」、実は今後のプラス要因だ 新ビジネスモデルに着手するチャンス

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映画作品はVHS/レーザーディスク時代からDVD時代を経て、DVD/ブルーレイ混在時代と続いてきたが、作品の資産価値は向上を続けてきていた。かつては劇場公開とテレビ放送程度しか収入がなかったが、映像パッケージなどの売り上げが増大し、カタログタイトルに対する評価はむしろ年々高まっていた。

このため、これまでソニー・ピクチャーズは過去にカタログタイトルの資産再評価を実施していない。おそらくどの映画会社も同じだろう。その長い歴史において、減損要因が長い歴史の中でもいっさいなかったからだ。

しかし、近年の映画事業を語るうえで、ホームエンターテインメント(BD/DVDなどのパッケージメディアやデジタル販売)事業は欠かすことができない領域だ。そのホームエンターテインメント事業の急速な市場縮小により、資産の再評価を自ら決断。再評価の後に監査法人へと報告し、減損発表へと至った。

映像作品の楽しみ方は急速に変化しており、VHS・レーザーディスク時代から続く「作品を所有する」ビジネスモデルから、インターネットストリーミングなどを通じて「好きな時に観たい作品を観る」時代へと変化している。旧作でもよい作品ならばロングテールでいつでもインターネットを通じて観ることができる反面、視聴のための単価は下がっており、従来よりも投資回収のスパンは長くなっていく。

一方で、DVDが登場して以降の作品に関しては、パッケージメディアやダウンロード販売での売り上げが投資の初期段階で見込まれている。ソニーが営業権をゼロにまで減損したのは、業界構造が変化する現在、このタイミングで事業構造を変える必要があると考えたからだ。

業界全体を俯瞰して見たとき、この決断は最終的にソニー・ピクチャーズにとって大きな前進をもたらすと筆者は考える。

ビジネススタイルが大きく変化

現ソニー・ピクチャーズのホームエンタメ部門トップを務めるMan Jit Singh氏は、2014年にインド法人から抜擢された人物である。前述したようにソニー・ピクチャーズにはメディアネットワーク部門という成長株があるが、インドにおけるメディアネットワーク事業を急拡大させたのが、Man Jit Singh氏だ。

その就任以降、ソニー・ピクチャーズは合理化が大胆に進められ、ビジネスのスタイルは大きく変化した。実は直近のソニー・ピクチャーズ作品は、パッケージ売り上げの低下を見込んで総制作費を抑えた構造に転換しているが、それを先頭で指示していたのも彼だと言われている。ネットワーク部門出身、そしてハリウッド外からのトップ就任で改革が進められ、今回のカタログタイトル再評価へとつながっている。

そうした意味では、ネットフリックスやアマゾンビデオなど、加入者型映像配信サービスが放送や映画の買い切り販売に代わって勃興してきた新しい時代に、真っ先に対応してきたのがソニー・ピクチャーズだったとも言える。

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