「道路を走る新幹線」はこんなに手間がかかる 標識や看板を一時撤去、歩道橋の改築も

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新幹線は市道1号豊橋豊川線から県道400号豊橋豊川線、そこから県道387号清須下地線、県道469号白鳥豊橋線へと道の名称はめまぐるしく変わるものの、ゆるやかなカーブの一本道で進むが、やがて難所、守下交差点に差し掛かる。ここで初めてほぼ直角に左折するのだ。まずは先導車、後導車から誘導員が降り立ち、交差点四方の車をすべて止める。そして牽引車が限界までハンドルを切ってもなお、巨大な新幹線の車体は曲がり切ることは出来ない。

そこで、前述の「舵切り」役の出番となる。リモコンで後方の車輪を動かし、ドライバーとの「あ・うん」の呼吸で車体全体を見事に左折させていく。このような交差点を2カ所曲がり切り、JR東海浜松工場正門前へ到着したのが午前4時。

最大の難所は工場の入り口

ここは全行程中、最も細い上下二車線道路。住宅街ということもあってか、夜中と早朝の間の時間にもかかわらず、どの交差点よりもギャラリーが多い。あちこちの家々から、小さな子供の手を引いたお父さん、お母さんたちが現れ、さながら近所のお祭りか盆踊りのようだ。ところが新幹線は、正門をくぐらず、門の前を通過してしまう。

というのは、JR東海浜松工場は全体が細長い敷地で、東海道本線と平行に位置している。16号車をそのままの状態で搬入すると、先頭部分が1号車と同じ東京方面を向いてしまう。そこでバックから門を入り、あらかじめ博多方向へ向けておく必要があるのだ。

巨大車両を精密機械のように動かす(筆者撮影)

やがて全長27メートルの車体がバックして来た。これだけの長いものを後進させるのは相当なテクニックだろう。しかも新幹線先頭車、あの特徴的な長いノーズを90度曲げて門を通過しなければならない。そしてこの門もやはり、この陸送計画が持ち上がった時点でギリギリまで拡げて作り直したという。

誘導員が緊張した面持ちで門へと近づき、「残り1000、800、500」とミリ単位で車体と門の距離を測り読み上げる。これはドライバーにも「舵切り」役にも無線のヘッドセットを通して聞こえている。そうやって巨大車両を精密機械のように動かすのだ。

バックと切り返しを繰り返すこと5回、時間にして50分弱。やっと新幹線のノーズは門を抜けた。時刻は早朝4時48分。かたずをのんでいたギャラリーからは歓声が上がる。大人たちは拍手をして、子どもたちは「スゲー!」「やったぁ!」と叫んだ。 つかの間の休息の後、彼らはまたN700系を運ぶ。事故なく、無事に。それだけを考えて。

東良 美季 ライター

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とうら みき / Miki Tohra

1958年生まれ。カメラマン、音楽PVディレクター、グラフィックデザイナーを経て現職。共著に『新幹線、国道1号を走る』(交通新聞社新書)。

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