「道路を走る新幹線」はこんなに手間がかかる 標識や看板を一時撤去、歩道橋の改築も
しかも普通に願い出ても「そんな大きなものが走れるはずないだろう」と門前払いされてしまうので、日通と日本車輌が交通量を調べ、ルートを設定し、個々の交差点に関しては測量を行い内輪差等の計算をして図面を描き、「こうすれば曲がり切れますので」と説明するという。
しかし、それをクリアしてもなお、実際に通行することは不可能だという。全長25メートル、高さ3.6メートルの巨大車両を通すには、公道にはさまざまな障害物があり過ぎるからだ。標識、看板、車線を分けるポールなどが障害物となってしまう。
歩道橋を作り直すほうが安上がり
障害になりそうなものは許可を得て、適宜、移動もしくは取り外し可能なものに交換する。日本車輌と日通では東北新幹線E2系の製造・運搬を請け負ったこともあるが、仙台車両基地に運ぶ際には市役所に交渉し、なんと歩道橋を高く作り替えた。なぜ、そこまでしてと思われるかもしれないが、歩道橋をくぐり抜けるためにパンタグラフなど上部の部品を取り外す手間、足場を組む費用などを考えると、歩道橋を作り直すほうがコスト的には安く上がるのだという。
そして深夜1時、いよいよ出発となる。トレーラー1号車には新幹線16号車、トレーラー2号車には15号車が乗せられた。16号車は連結面を前、先頭部を後ろにした状態だ。危険回避のため、クリスマスのイルミネーションを思わせる電飾が車体全体に巻き付けられている。
両車、メインのドライバーが2人に、後方のタイヤ操作をする「舵切り」という役目のスタッフが2人ずつ。これに運転助手等スタッフが3人ずつ。これらは日通中部重機建設の社員。さらに1号車、2号車にそれぞれ先導車、後導車、後方警戒車が3台ずつ続く。こちらの人員は8名で、外注の警備会社が担当する。あたかも深夜の新幹線輸送キャラバン隊といったところだ。「ブルルゥーンッ!」と、地響きのような音が鳴り響き、いよいよ大型トレーラーのエンジンがかかりスタートである。
驚くのは深夜だというのに門の外には鉄柱を握りしめ、眼を輝かせて出発を見つめるギャラリーがいることだ。その数20人ほど。高級一眼レフに望遠レンズを装着した鉄道マニアの若者もいるし、スマホ片手のカップル、小学生くらいの子供の手を引いたお父さんの姿もある。
日本車輌もJR東海も、輸送のスケジュールは一切発表していない。にもかかわらず、近所の人や鉄道ファンたちは、どこかからその情報をかぎつけ、毎回集まってくる。新幹線キャラバンが無事豊川製作所ゲートを出ると、ギャラリーたちのほとんどが自家用車に乗り込み、後を追う。ナンバーは地元豊橋、三河が多いが、中には滋賀、京都といった文字も見受けられる。
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