「道路を走る新幹線」はこんなに手間がかかる 標識や看板を一時撤去、歩道橋の改築も
工場で組み立てられた新幹線車両が、どのように鉄道会社の車庫へと運び込まれるか。巨大なトレーラーに載せられ、深夜の一般道を走行する姿をテレビで見たことがある人も多いだろう。本稿では愛知県豊川市にある日本車輌製造豊川製作所で製造された新幹線N700系が、約46キロメートル離れたJR東海浜松工場までどのように運ばれるのかを説明してみたい。
その作業は午前中に豊川製作所にて、完成した新幹線の車両をクレーンで吊り上げ、道路を走るためのタイヤ部分に接続することから始まる。先冒頭で「巨大なトレーラーに載せられ」と書いたが、厳密に言うと違う。陸を輸送するにはあまりに大きすぎるため、車輪部分の代わりにゴムのタイヤを付けた台車に乗せ、それをエンジン付きの牽引車が引っ張る。つまり、新幹線の車両自体が巨大トレーラーと化すわけだ。積み込みをするのは、日本通運・中部重機建設支店の精鋭10人。彼らが輸送と搬入すべてを担当する。
冷凍マンモスを運んだスタッフ
重機建設とは、日本通運内で巨大な資材を運搬する専門部署である。新幹線のほかにも発電所の巨大トランス、風力発電の羽根なども運ぶ。ちなみに2005年の愛知万博(愛・地球博)の際、シベリアから空輸された冷凍マンモスを名古屋空港から愛知県長久手市の会場まで陸送したのもこのチームである。午前中に1両、午後に1両、約2時間ずつかけて、新幹線車両はタイヤ付き台車に乗せられる。実際の輸送は交通量の少ない深夜だ。
出発は午前1時。それまで彼らは宿舎である、豊川市のホテルに戻り睡眠をとる。これが16両を1日2両ずつ運ぶので最低でも8日間、昼夜逆転した生活が続く。ちなみに初日は16号車と15号車。これは博多へ向かう際の最後方、東京方面上りでは先頭になるわけだが、最終的にJR東海浜松工場から実際の線路へと出ていくときの順番を考えてのことだ。
さて、N700系の車両は先頭車(1号車・16号車)が全長27.35メートル、その他の車両で25メートル。全幅は3.36メートル、屋根の上までの高さは3.6メートルもある。これだけ規格外に巨大なものを公道に走らせるには、当然警察および行政との許可・折衝が必要だ。そもそも新幹線を運ぶための車両が既製品であるはずもなく、先に述べたゴムタイヤ付き台車は日通が新たにゼロから製造したものだ。
ゆえに国土交通省にて車検証を取得するところから始まる。そこで初めて公道を走れることになるのだが、当然、道路の使用許可が必要だ。国道なら国土交通省、市道は市役所、県道なら県庁とそれぞれ違った行政機関に出向く。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら