さらに、メイ首相の挙げた優先事項には、「単一パスポートの維持」が入っていなかった。EUの単一パスポートとは、EU域内のどこかの国で認可された金融機関は、域内のどこでも同じ免許で営業することができる制度だ。これを失うことは、英国に本拠地を構える金融機関にとっては、EU域内の他国で自由にビジネスを営みにくくなるという面で、大きなデメリットとなる。
単一パスポートは維持できるのかできないのか、離脱交渉が終わり、結果が明確になるのは早くて2年後だ。しかし、ビジネスを判断する者にとって2年間という歳月は長すぎる。場合によっては、業を煮やして、本社機能を早々にEU域内に移す金融機関も出てくるかもしれない。英大手金融機関HSBCホールディングスのスチュアート・ガリバー最高経営責任者(CEO)は1月18日、ダボス会議でメディアのインタビューに答え、「ロンドン投資銀行の収入の約20%に相当するトレーディング業務を、パリに移す可能性がある」と述べた。
BIS(国際決済銀行)が3年に1度発表しているTriennial Central Bank Survey(2016)によれば、英国は為替取引において世界の37%、デリバティブ取引においては38%のシェアを誇る。仮に金融センターがロンドンからパリに移るようなら、経済への打撃は大きいだろう。
ポンドは再び下落トレンドに
金融機関の問題だけではない。Hard BrexitになるのかSoft Brexitになるのか不透明な間は、一般の企業にとっても新たなリスクはとりにくく、今後は設備投資などが細る可能性もある。また、海外の投資家にとっても、しばらくは英国への積極的な投資は手控えざるを得ないかもしれない。
これまでのポンドの大幅安による好影響もあり、英国経済も好調で、IMF(国際通貨基金)による見通しでも今年の英国の成長率は、独、仏、伊など、ユーロ圏の主要国を上回るとされている。
しかし、EU離脱交渉をめぐる不透明感が英国経済にとっては打撃となり、足元反転上昇しつつあるポンドは時間をかけて再び下落トレンドに入るのではないか。
ポンドドルは1985年の史上最安値1.0520に対し2007年に高値2.1161から76.4%下落した1.3049を既に大きく下回っている。フラッシュ・クラッシュのように一瞬にして6%の急落もあり得る時代。離脱に向けた交渉が難航すれば、今後数年間のうちには100%もとに戻って1ポンド=1.05ドル台を試す可能性も、あり得ない話ではないだろう。
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