これらの反省をふまえてか、同首相が1月17日に行ったEU離脱に関する演説は、EU側にも一定の配慮を示した内容となった。同首相は英国民が選択した「EUからの完全離脱」を目指す決意を明確に示す一方で、離脱交渉の内容について、交渉前に英議会の採決にかけることも表明した。また、離脱によって現在の「EU域内における自由貿易」の権利を失う代わりに、新たな自由貿易協定をEUと結ぶ意向を明らかにした。つまり、EUとの良好な関係を維持し、一部の権利を維持することを目指すSoft Brexit(ソフト・ブレクジット=マイルドな離脱)の可能性も示唆したのである。メイ首相は同演説で、「英国がEUの『良い友人・隣人』であることを望む」と述べた。
こうしたメイ首相の姿勢に対し、EU側のユンケル欧州委員長からも賞賛の声があがるなど楽観的なムードが広がるなか、為替市場でも「やれやれ」とばかりにポンドドルは急騰した。しかし、この反応はやや楽観的過ぎるのではないかと筆者は考えている。
虫がよすぎるメイ首相の対EU方針
1月17日の演説でメイ首相が示した、EU離脱交渉における主な優先事項は以下の通りだ。
(1)移民流入を制限する
(2)英国の法的主権を行使する
(3)EUの単一市場と関税同盟から撤退する一方で、新たに関税と摩擦のないEUとの自由貿易を模索する
(4)EU外の諸国とも新たな貿易協定を交渉する
(5) 新たな規則を、時間をかけて段階的に導入できるよう、金融サービス業界やその他企業に配慮する
(6)EU予算への「巨額の」拠出を廃止する
しかし、どうも虫のいい話ばかりが並んでいて、果たして実現できるのか、可能性は限りなく不透明である。そもそも離脱によってEUとの関税同盟を放棄する一方で、新たな英国独自の関税同盟をEUと結ぶことなどできるのだろうか。そもそもメイ首相のいう「新たな関税と摩擦のない貿易」が、新しいEUとの関税同盟を模索することを示すのか、同盟の準加盟国のような形をとるのかは不明だ。
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