全面禁煙は経済損失と考える人の残念な論理 喫煙を許容するほうが経済損失が大きい

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ショットバーなど、たばこと酒が似合う場所は存続が危ぶまれるのではないか?との懸念もある。しかし、1995年にカリフォルニア州ではレストランやバーなどでの喫煙が禁止されたが、懸念のような事態には至っていない。建物の入り口から20フィート(約6メートル)以上、離れた場所でなければたばこが吸えないというルールも加えられているが、施行から20年以上経過して、当たり前のこととして認識されている。

むしろ「安心してどんな店にでも入れる」ことのほうが歓迎されていると言えよう。毎年、何度もカリフォルニアには取材で出掛けているが、バーやクラブは客であふれかえっており、たとえばサンフランシスコのダウンタウンのようにビルが建て込んだ場所では、店の近くでたばこを吸う人間を見つけることすらできない。

カリフォルニアでは喫煙所の設置さえ認められていないため、すなわちその地域ではたばこを吸う人間がいないということだ。ホテルはどこの部屋を取ってもたばこの臭いに悩まされず、禁煙のレストランで“吸いたくてソワソワする”人もいない。全面禁煙も20年以上経て、社会全体がたばこがないことになじんでくる。

サンフランシスコでは屋外であっても、人が多く集まる公園、あるいは街頭フェスティバルなどでも禁煙化されており、もちろん100%ではないが、仕事で訪れるツーリストの視点からみると“たばこの煙がない街”に見えるまでになってきた。

最終学歴が高いほど喫煙率が低い

米国CDCは2014年、最終学歴による喫煙率の違いという数字を発表している。米国の喫煙率は13.7%と低いことも理由としてはあるが、大卒以上で7.9%、大学入学で19.7%、高卒で26.4%、高卒未満で26.5%で最終学歴が高いほど喫煙率が低い。これは所得層による喫煙率の違いと読み替えてもいいかもしれない。“禁煙化”のほうが、より高い所得層が属しているうえ、全成人の8割以上が非喫煙者となれば、禁煙化がビジネス面で不利とは考えにくい。

禁煙か喫煙可なのかといった、店が提供する商品・サービスの質とは異なる差異化要因が排除されることで、かえって純粋に店の実力での勝負となるため、飲食店であれば味やサービスのレベルが向上するだろう。

冒頭の話題に戻そう。もし筆者が政府案に意見を述べるならば、飲食店への喫煙室併設は許容すべきではないだろう。新たに喫煙室を併設することによるコスト負担などの問題もあるが、喫煙室の有無という業務の本質から外れた差異化要因は排除すべきだからだ。

飲食店の禁煙化は、2020年東京五輪を迎えるための準備(近年の五輪開催都市はいずれも公共の場における喫煙が制限されている)と言われている。もしそうだとするならば、世界でも有数のグルメ都市である東京をさらに観光資源へと昇華させるためにも、強い気持ちをもって禁煙社会を実現すべきだろう。

さて、みなさんはこの問題をどう考えるだろうか。

愛煙家と呼ばれる人たちは、喫煙する権利を守れと言うだろう。喫煙していた時期、筆者自身もそう考えていた。しかし、副流煙による受動喫煙が大きな健康被害を呼び、グローバルでの嫌煙ムードが広がっている中、社会的に向かう方向は定まってきている。健康被害にせよ、悪臭問題にせよ、分煙化が進んだ今でも他者に我慢を強いている日本の社会が、“分煙化すれば問題ない”という意見が幻想であることを示している。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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