大混戦「フランス大統領選」の注目点はどこか 極右ルペンvs.改革派マクロンの構図に

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1月22日の社会党・予備選(初回投票)までに3回予定されているテレビ討論会のうち2回を終えた段階で善戦が目立つのが、これまで3番手に付けていたアモン候補だ。テレビ討論会後に発表された世論調査の中には、ヴァルス候補とモントブール候補を抑えて首位に立つものもある。先の共和党予備選を制したのが、直前のテレビ討論会で評価が高かったダークホースのフィヨン候補だったことは記憶に新しい。左派色を前面に打ち出すアモン候補が社会党の予備選を制すれば、マクロン候補に中道票が集まることが予想される。その場合、マクロン候補がルペン候補の獲得票を上回り、5月7日の決選投票に進出する可能性が高まるだろう。

第2に検討すべきは、今後の候補者の出馬撤退や一本化が本選に与える影響だ。社会党候補が劣勢を挽回するには、左派票を結集する以外にない。現在4番手につける左翼党のジャン=リュック・メランション候補(元社会党、世論調査で11~14%程度の支持)が本選への出馬を見送った場合、社会党の大統領候補に支持票の一部が流れることが予想される。その場合、社会党候補が20%以上の支持票を獲得し、予想に反して決選投票への切符を手にするかもしれない。

他方、世論調査で中道派の民主主義運動を率いるフランソワ・バイルー候補(世論調査で5~8%程度の支持)が大統領選への出馬を見送った場合、中道票の多くはマクロン候補に流れる可能性がある。バイルー候補は共和党予備選で中道派のアラン・ジュペ元首相が勝利すれば、ジュペ候補支持に回り、自身は出馬しない意向を伝えていた。ヴァルス候補の社会党予備選での敗北と重なれば、マクロン候補が支持票を上積みし、決選投票に進出する可能性が高まりそうだ。

ルペン候補は早期敗退か、"まさか"の勝利か

このように、今後の展開次第ではルペン候補が4月23日の初回投票で敗北し、選挙イヤーの最注目イベントが早くも消化試合となることも想定される。他方、下記の通り、ルペン候補が決選投票に進出し、フィヨン候補を破る「まさか」のシナリオが実現する可能性もある。

共和党予備選に臨んだフィヨン候補は保守票固めを狙い、週35時間労働制の廃止、富裕税の廃止、公務員削減など、右派色を鮮明に打ち出した。初回投票で左派や中道候補を支持した有権者が、決選投票でフィヨン候補の支持に回るかは予断を許さない。むしろ、社会的弱者に寄り添う政策メニューを並べるルペン候補の支持に回る可能性もある。今後、フィヨン候補は本選に向け中道票を取り込むため、公約や発言を軌道修正するとみられるが、舵取りを誤れば、保守と中道の間で埋没する恐れがある。

また、英国のEU離脱選択、米国大統領選でのトランプ候補の勝利、先の共和党予備選でのフィヨン候補勝利など、このところ世論調査の信頼性が疑われる出来事が相次いでいる。過去のフランス大統領選でも、ルペン候補の父親が決選投票に進出した2002年、その娘で党首を引き継いだ現ルペン候補が初めて出馬した2012年の初回投票で、両候補は事前の世論調査が示唆する以上の票を獲得した。隠れ極右支持の存在は無視できない。さらに、ロシアによるサイバー攻撃、難民危機の再燃、大規模テロ事件の再発生などがあれば、これらもルペン候補の大逆転劇の立役者となり得る。EUの未来を占うフランス大統領選、まだまだ紆余曲折があるだろう。本当の勝負はこれからだ。

田中 理 第一生命経済研究所 首席エコノミスト

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たなか おさむ / Osamu Tanaka

慶応義塾大学卒。青山学院大学修士(経済学)、米バージニア大学修士(経済学・統計学)。日本総合研究所、日本経済研究センター、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)にて日、米、欧の経済分析を担当。2009年11月から第一生命経済研究所にて主に欧州経済を担当。

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