北朝鮮亡命外交官が語った「金王朝の弱点」 「民衆蜂起が発生する可能性もある」

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北朝鮮住民を一日も早く啓蒙して、彼らの認識に疑問を生じさせるようにすべきだ。これもまた、韓国が主導すべきだ。北朝鮮に流入する韓流コンテンツを通じて北朝鮮住民が人間らしい生活を取り戻すべき理由、または北朝鮮の金正恩政権の虚構などを教えるべきだ。そうなれば、ある瞬間から北朝鮮住民は立ち上がることができると考える。北朝鮮住民が立ち上がれるようなガソリンを注入すべきだろう。

――北朝鮮による外国人拉致問題について聞いてみたい。拉致された人と会ったことはあるか。

個人的に拉致された人を一度も見たことはない。政策的な側面に絞って言おう。小泉純一郎政権時代、日本は金正日に拉致問題を公式に認めてほしいと要求した。北朝鮮が日本人を拉致したと認め、帰国させてくれれば、首相として責任を持って100億ドルを提供すると述べた。北朝鮮もこれを受け入れた。

問題は、その後だ。北朝鮮は100億ドルを受け取るつもりだったが、拉致被害者が北朝鮮の人権侵害の実像を打ち明けた。日本の世論も沸騰した。カネをやるつもりだった小泉首相も、結局、金正日との約束を守ることができなかった。北朝鮮としても、相当なジレンマを持っている。拉致問題を解決しようとすれば、フレームを変えなければならない。100億ドルを積み上げ、生存者や志望者の骨を返してほしいとアプローチすれば、話は変わってくるはずだ。

――統一されれば、住民はそれまで統治してきた“加害者”を断罪する可能性が高いが。

平壌に行けば、高位幹部が住む住宅が別にある。停電になってもそこには電気が供給されている。金正日や金正恩が幹部層に向けて、「おまえとおれとは同じ運命を歩むのだ」という共同体認識を受け付けるためだ。幹部は一般住民が住む隣のマンションは真っ暗で、自分の所だけ明かりが灯されていれば、まずはカーテンを閉める。住民がどう思うか怖いからだ。こんなやり方が、金正日、金正恩の統治スタイルだ。ところが、北朝鮮社会を振り返ってみると、こんなエリート層や幹部層が立ち上がらないと統一の実現には厳しい。

統一されれば北朝鮮エリート層を無罪にすべき

――そんなエリート層まで引き込まないといけないということか。

散発的な民衆蜂起が生じれば、高位幹部層は「これを許せば自分も死ぬ」と思うから弾圧するのではないか。さらには、後で韓国から処罰を受けるとなれば、統一はさらに遠のくだろう。となれば、彼らを依然として金正恩の側に留まらせる結果を招く。

北朝鮮の幹部層に「今後統一されれば、それまでのことは問わない。住民とともに金正恩を打倒せよ」とすべきだ。統一された場合、北朝鮮のエリート層が最も恐れるのは政治的報復だ。そのままでいられるだろうかという意識は強い。韓国政府が主導して、政治的報復が起きないように韓国国民と同等の機会を与えるということを認識させなければならない。

――北朝鮮住民がそれに同意するか疑問だ。

政治的報復が起きれば、反対の効果が必ず起きる。私が韓国で活動を始めると、北朝鮮側はすでに「必ず後悔する」と発表した。また、「北にいる兄弟親戚をそのままにしておかない」とも言った。私もまた、統一された後に故郷に戻り、兄弟と一家親戚を殺した国家の高位幹部らに向かって報復したという痛切な思いはある。夜にも「統一されればどうなるか」と悩み、眠れないこともある。脱北者は私のような気持ちだろうが、個人が復讐するとなれば、さらなる不幸を招く。

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