諫早湾の干拓、「ギロチン」閉め切りから20年 開門巡る裁判の和解協議はまだ続く
国営諫早湾干拓事業は4月で、「ギロチン」と呼ばれた湾奥部の閉め切りから20年になる。排水門の開門を巡る裁判は、国、開門派、開門阻止派の3者で和解協議が続いているが、国が示した開門しない前提の100億円の基金案は漁業者の分断もはらみ、先行きは見えない。有明海では赤潮発生が続くなど抜本的な原因究明は待ったなしの状態で、再生に向けた道筋が示せるのかどうかに注目が集まる。
今季のノリ養殖の冷凍網張り込みの解禁日は、昨年の12月23日から1月6日に延期された。大規模な赤潮発生が原因だ。佐賀市の漁業者は「県東部まで含めて延期になるのは記憶にない。もう有明海の体力はぎりぎりの状態で、安心して仕事ができない」と訴え、早期の開門調査を求めた。
混乱を招いている国の基金案
開門問題を巡る訴訟では昨年から、国、開門派、開門阻止派が同じテーブルにつき、長崎地裁と福岡高裁で和解協議が本格化している。和解が成立すれば、少なくとも長期間続いてきた開門を巡る訴訟の乱立に終止符が打たれ、問題解決に大きく前進する。
ただ、長崎地裁が示した和解勧告では「開門しないこと」が前提になった。これに基づき国は、有明海の漁業振興策に使う100億円の基金創設を提案した。運用するのは訴訟の当事者ではない沿岸4県と各漁業団体で、裁判所は1月17日までに受け入れの可否を回答するよう求めている。
これが、漁業者の分断をはらむ大きな混乱を招いている。基金案は、開門しない前提の和解が成立しなければ実現することはない。つまり和解するには、開門派の原告漁業者が確定判決に基づく開門の権利を放棄しなければならず、現状では極めて困難な状況にある。
しかし、これまで足並みをそろえて開門を求めてきた佐賀、福岡、熊本の3県の漁業団体のうち、佐賀を除く両県が「開門の旗」を掲げたまま基金案の受け入れに傾いている。中立の立場だった長崎も受け入れる方針とみられる。
福岡、熊本両県が矛盾した対応をするのは、国の分かりにくい説明にある。国は「基金案で開門の権利を放棄しなければならないのは、訴訟当事者である開門派弁護団だけ。国が漁業団体に『開門を求めるな』とまで強制できない」と話し、漁業団体に受け入れを迫っている。