しかし、物事は論理的には動きません。変化にはスイッチングコストがかかるため、短期的な変化へのコストを支払わずに、「どうにか今までやってきたこと(過去)を続けられないか」と考える経営者が大半です。その結果、従来型の低生産性構造の産業を維持したまま、足りなくなった「働き手」を探すことになっているのです。
よく地方では「働き手不足」という言葉が出るのですが、それは別に人口減少だけが原因ではなく、明確な問題があるのです。それは、地方における既存産業で求められる労働自体が「低賃金・長時間労働」であったり、血縁・血縁を基礎とした付き合いなどを理由に、「女性や子供たちは無賃金労働するのが当たり前」、といったものだったりするからです。
人手不足なのに、経営者たちがプロセス改善や設備投資と向き合わず、昔からの非効率な業務のまま、過剰労働の担い手を探し続け、さらに地域を衰退させてしまう負のスパイラルが発生しています。
「外国人研修制度」は「地方の当座しのぎ」に過ぎない
かつては学生や訳ありの若者の期間限定バイトなどで補えた時もありました。しかしそうした労働は、近年では日本人の若者からは見向きもされなくなりました。そこまでくれば、「今度こそ変革を!」と思うところです。しかし、そうならずに、次は「外国人を活用すれば良い」となってしまいました。その一つが、近年大きな問題になっている「外国人技能実習生制度」です。
2014年には東京入国管理局から外国人農業技能実習生の受け入れ停止処分を受け、一部の協同組合が解散にまで及んだ長野県川上村の事例が世間を賑わせました。年収1000万円以上の農業世帯が当たり前の「豊かな農業の村」として全国的に注目されている同村ですが、外国人実習生に過酷な長時間労働などをさせていた実態が明らかになりました。
同村では日本人の人口減少が続き、外国人を除いた高齢化率は30%に達し、衰退は続いています。5000人弱の同村の人口のうち850人程度、つまり住民の2割弱が外国人実習生となっています(2015年の同村資料による)。もはや外国人実習生がいなければ、村そのものが成立しないといっても過言ではないレベルです。
もちろん外国人実習生は同村だけでなく、全国で約16万人に上ります。その出身国は、これまで全体の多くを占めていた中国が減少に転じ、ベトナム、フィリピン、インドネシアへと出身国が変化しています。
しかも、2015年度には実習生のうち、行方不明者が3139人(2014年度、公益財団法人国際研修協力機構)に達しています。「割に合わない働き手」探しが、日本人から中国人にシフトし、さらに次なる国の若者たちへと矛先が向いているとすれば、頭を抱えます。途上国の人材育成も目的にしているとはいえ、当座が回っていればそれで良い。そのような地域に、明るい未来があるとは思えません。
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