ドイツから感じた、「日本型結婚式」の違和感 なぜキリスト教徒でないのに教会式なのか?

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また、「『ゼクシィ』海外ウエディング調査2016調べ」によると、海外挙式の選択理由の第3位が「堅苦しい結婚式をしたくなかったから」(49.1%)となっている。日本の披露宴は、双方の両親や親族、上司などに「結婚」を公に認めてもらうという、社会的側面もある。そのため、守るべき「形式」はなかなか無視できない。「形式」「伝統」「礼儀」というのは、総じて日本人が好むものだ。だが、結婚式と披露宴なんて、新郎新婦が自己満足すればそれでいいのではないだろうか。ゲストは2人を祝いに来るのだから、2人がしたいようにするのが、「正解」のはずだ。

その点、ドイツの結婚式はもっとカジュアルだ。さまざまなやり方があるが、一例として、私が参加したStandesamtの結婚式と、その後の披露宴の流れを紹介したい。役所へ行くと、新郎新婦が出迎えてくれ、一緒に写真を撮る。その後、役所の小ぎれいな部屋に案内され、ゲストは適当に席に着く。役所の人が簡単なあいさつをして、新郎新婦は保証人となる友人とともに、婚姻届にサインをして、指輪を交換する。結婚式は、それで終わりだ。

その後は披露宴会場となる近所のレストランへ行くが、そこでも新郎新婦が出迎えてくれて、プレゼントを直接手渡した。席の指定がなかったので、適当に席に座り、ビュッフェ形式の料理を楽しみながら歓談したり、みんなでゲームを楽しんだ。ゲストたちの酔いが回ってくると、照明が落ちて音楽がかかり、レストランはディスコと化して、飲んで騒いでのパーティとなった。ゲストはそれぞれの終電に合わせ流れ解散という、ざっくりしたものだった。

ドラマや映画などの結婚式のシーンを考えてみると、わかりやすいかもしれない。日本の結婚式シーンと言えば、扉がバーンと開き、新婦とその父が登場する印象が強いだろう。上司や友人のスピーチ、新婦からの手紙の朗読を思い浮かべる人もいるかもしれない。だが、欧米の結婚式というと、「パーティ」のイメージがパッと浮かぶのではないだろうか。私は、シャンパンを片手に野外で語り合っているシーンが思い浮かぶ。形式ばった家や職場の付き合いがなければ、欧米の映画でよく見るような、カジュアルなパーティにすることが可能になる。

結婚はプライベートか、社会的行事か?

結婚は重要な人生の転機であり、結婚式当日は楽しい1日にしたいものだ。だが、クリスチャンでもないのにチャペルにこだわり、家や職場での立場を考え形式を重んじ、多大な費用をかけるのは、滑稽ではないだろうか。結婚式にあこがれを抱くことを否定するわけではないが、結婚はプライベートなことなのに、日本ではいまだに社会的行事として面倒な要素が多い。

宗教的にこだわりのある日本人は相対的に少ないのだから、日本の役所も、ドイツのような「カジュアルな挙式」ができるようにするのはどうだろう。役所の一室を小ぎれいにして、担当者がひとり同席するだけで事足りる。「若者が結婚しない」と騒ぐのであれば、結婚しやすい環境づくりに務めてほしいものだ。面倒な「形式」を壊せば、費用も自然と小額に収められるだろう。結婚式や披露宴がカジュアルに安く楽しめるものになったら、結婚に消極的になる理由が、ひとつ減るかもしれない。

最近は海外挙式や写真を撮るだけで済ますなど、結婚式の選択肢も増えてきているが、それでも「結婚式・披露宴はこうあるべき」というイメージが根強くある。共働き夫婦が増え、事実婚などパートナーシップのあり方が問われていく中、結婚式もまた、変わるべきではないだろうか。

雨宮 紫苑 フリーライター

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あまみや しおん / Shion Amamiya

1991年、神奈川県生まれ。立教大学在学中にドイツで1年間の交換留学を経験。大学卒業後再び渡独。ワーキングホリデーを経て現地の大学へ入学し、現在フリーライターとして活動中。日独比較や外から見た日本など、海外在住者の視点で多数の記事を寄稿している。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。

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