「課題先進地」東北で女性たちが今考えること 被災地の今から考える<後編>
こうした活動の延長に生まれたのが、産前産後ケアハウス「まんまるぽっと」。ちょうど10月にオープンしたばかりだ。ここでは9~16時までのデイサービスや、午前、午後の数時間ショートステイを受け入れる。生まれたばかりの赤ちゃんを抱えて大変な母親が、体と心を休められるよう、食事(お弁当)の提供、赤ちゃんの沐浴、母乳ケア、アロマトリートメントなどを受ける。両親学級や母乳相談、祖父母向けの子育て指導プログラムもある。
佐藤さんは、すでに任意団体「まんまるママいわて」代表や助産院の院長を兼務している。産前産後ケアハウスは、いわば新規事業。団体の活動報告書に、佐藤さんは次のように書いている。
「2011年から5年を迎える節目に、当初の目標であった『復興支援』の枠にとらわれず、『継続した母子支援』を目指したいと願い、スタッフで何度も話し合いを重ね、名前を変えることになりました」
産前産後の大変さは、近年「産後クライシス」に関する報道がきっかけで、認知が高まっているが、これという解決策は見当たらない。祖父母が遠方で夫が長時間労働だと、産後の母親は孤立する。産前産後ケアを受けられる施設型サービスは、都市部にもニーズは多いが、供給は多いとは言えない。佐藤さんの新規事業は、まさに、復興支援の枠を超えて、最新の母子支援を目指すものと言える。
彼らの活動は、ほかの地域にとってもヒントになる
こんな具合に、被災地支援から始まり、東北三県で活動する女性たちと、彼女たちと志を共有する男性たちの目線は、長期的なところに向かっている。地域の良さを見直し移住促進活動に取り組む植田さん。お母さんが楽しく子育てしながら能力を発揮できる地域を作ろうとしている、板林さん。そして、産前産後という母親にとって一番大変な時期を支援する新事業を作った助産師の佐藤さん。
彼女たちが技能を伸ばし、リーダーとしてステップアップするため、国内外で学ぶ機会を提供するNPO法人ウィメンズアイの石本さん。さらに、こうした女性達と議論し、協力しながら若い人が住みたいと思う街を作ろうとしているSAVE TAKATAの佐々木さん。避難所運営から始まり、今は市議会議員として街の再活性化に取り組む蒲生哲さん。被災地で活動する彼・彼女たちの考え方や活動は、ほかの地域にとってもヒントになりそうだ。
グラスルーツ・アカデミー東北を経済面、情報提供の観点から支援する国際NGO・JENで東北事業を統括する高橋聖子さんは、次のように話す。「東北の被災地は少子高齢化や産業空洞化など、復興庁が『課題先進地』と呼ぶように、日本の課題が凝縮しています。地域をもっとよくしたいと願い、活動する若い女性たちはよりよい未来につながる希望だと思います。また、彼女たちがサポートしあうネットワークであるグラスルーツ・アカデミーは地域の財産です」
災害後の復興を考える際のキーワードに「Build Back Better」がある。国際的によく使われ、2015年に仙台で開かれた国連防災世界会議でも引用されたフレーズだ。復興とは、災害前と同じ状態に戻すのではなく、よりよい社会を作ることを意味する。“課題先進地”の東北で若い女性たちが活躍できる基盤と風土を作ることができれば、それは、少子高齢化や人口減少に悩む日本の各地のお手本となるだろう。
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