「課題先進地」東北で女性たちが今考えること 被災地の今から考える<後編>
都市部と違い、人口密度が低い地方部で、志を同じくする人たちが実際に集まれる機会は貴重だ。今回の取材では、岩手県住田町にある、古民家を改装したレストランに、グラスルーツ・アカデミー東北の参加者4名に集まってもらい、話を聞いた。
広い敷地内には、開放的なレストラン、オムツ換えのスペース、さまざまな集まりに使える和室がある。このスペースを運営する責任者・植田敦代さんも、アカデミーの参加者だ。植田さんは、もともと岩手県出身。学生時代から首都圏に住んでいて、震災当日はリクルート本社に勤務していた。地震が起きた瞬間はJR総武線に乗っており、浦安付近で液状化した地面を歩いた。震災後もしばらく東京で暮らした後、縁あって岩手県住田町にアイターン。現在は地域おこし協力隊として、移住促進や地域振興にも携わる。
板林恵さんも震災を機に転職
アカデミー参加者のひとり、板林恵さんは、陸前高田のNTTドコモショップで働いていた。たまたま子どもと外出していて難を逃れたが、津波で自宅と実家、勤務先が流された。家族はすぐに避難したため無事だった。
震災後は仮設住宅で生活しながら勤務を続けた。しかし、隣町まで通勤しなくてはならず、被災者から寄せられる複雑な手続きで深夜帰宅が続く日々。家族が寝た後、仮設住宅に帰ってきて夜、ひとり、疑問を感じてきた。そして1年数カ月後、決意して会社を辞め、退職金でベビーマッサージの勉強をした後、現在は地元の育児支援NPOで働いている。
板林さんと植田さんに共通するのは、震災をきっかけに転職したこと。ふたりとも会社づとめの経験が、今の仕事に生きている。必要ならどこにでも挨拶に行ける営業力を持つ植田さん。細かな事務作業全般をひとりでこなせる板林さん。震災を機に人生を考え直し、転身した彼女たちは地域のリーダーになりつつある。
「リーダーシップ」という言葉は、誤解されることもあるが、強引に人を率いていくことではない。植田さんも板林さんも、論理的に冷静に話を進めるタイプだ。たとえば板林さんは、地域の中で、楽しみながら自然にリーダーシップを発揮している。それはこんな具合だ。
仮設商店街の中にある、子育て広場。そこで出会った母親たちと、ある日、こんな話題が出た。「子どもがいると、飲みに行けないね……」。そこにあるのは、どこの街でも聞かれる、母親であることの不自由だった。
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