JR西日本の「ベンチャー投資」は成功できるか 保守的な社風の打破に向け、投資候補は100超

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JR西日本イノベーションズの奥田英雄社長(撮影:尾形文繁)

ただ、課題も3つある。まずは拠点の問題である。同社は大阪市にあるJR西日本の本社内に拠点を置く。地域活性化という観点から西日本エリアの農業や水産業と組むのであれば、大阪市内に拠点を持つことは有効だろう。だが、IT分野を中心とした案件を開拓したいのであれば東京都内にも拠点を持つ方が情報は収集しやすいはずだ。拠点の問題は奥田氏自身も認識しており、会社運営が軌道に乗れば、いずれ東京にも拠点が設けられるかもしれない。

第2の課題は投資目的である。一般的にベンチャーキャピタルは投資先企業を売却して利益を稼ぐのが目的であるが、CVCは利益よりも自社の事業とのシナジー創出を重視する。奥田社長は「シナジーがなくてもすごく有望な会社に出資し、IPO(株式新規上場)で外に出すことは、主目的ではないが頭の片隅にはある」という。二兎を追うとどちらも失敗することになりかねない。この際、シナジー創出に特化して、金銭的なリターンは頭の片隅からも追い払ってよいのではないか。

本社との線引きがあいまい

第3の課題は意思決定プロセスだ。CVCのメリットは、本社と切り離すことで意思決定の迅速化が図れることだ。見かけ上はその通りだが、保守的な企業の場合はCVCでの決定にプラスして本社の決済も仰ぐことがある。このため、かえって効率が悪くなるということもありえる。したがって、本社とCVCの線引きははっきりとさせておく必要がある。

JR西日本イノベーションズの場合は、金額で線引きを行ない、大型の出資は本社、スピードが求められる小規模な出資は子会社という形で本社との役割分担をするという。ただし、「内容が重要なものについては、本社の承認を得る」(奥田社長)。

JR西日本は連結売上高に占める非鉄道事業の割合を現在の34%(2016年9月期)から2022年までに40%まで引き上げることを目標にしている。その達成にはベンチャー投資の成功は欠かせない。とはいえ、安全を最優先とする鉄道事業者の社風は得てして保守的になりがちだ。ベンチャー投資はその対極にあたる。保守的な社風に埋没することなく、いかに新しい事業に取り組んでいくか。JR西日本のベンチャー投資成功の鍵はまさにそこにある。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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