こんな調子だから、毎朝のツィッターチェックは欠かせない。今週のトランプ次期大統領は、ご存知の通り、12月6日にはこんなご機嫌なコメントを発している。
「日本のマサ(ソフトバンクの孫正義社長)がアメリカに500億ドル投資して、5万人の雇用を作ってくれると言ってくれたよ」
「マサいわく、俺たちが選挙で勝たなかったら、投資は考えなかったってさ!」
次期合衆国大統領閣下がソフトバンクの宣伝をやってくれちゃった。全世界が注目する「トランプ劇場」に登場するとは、孫正義社長もなかなかやりますな。いや、どうもお二人はタイプが似ているような気がしますぞ。
プロレスのような「文法」で読み解こう
トランプ氏の情報発信は、変幻自在だがご本人はいつも大真面目である。「つかみ」が上手いが「ふかし」も入る。額面通りに信じてはいけない。例の「メキシコとの国境に壁を作る」という話も、トランプ支持層には受けていたが、その通りに実行するつもりはないらしい。
11月21日の「TPP(環太平洋戦略経済連携協定)離脱発言」と同時に発表された移民対策は、「労働省に命じて、アメリカ人の雇用を減らすようなビザの乱用について調査する」とあるだけだ。その程度のことは、今のオバマ政権でもやっていると思うのだが…。
つまり「メキシコ国境の壁」というのは、「ネタ」なのである。プロレスラーがリング上でマイクを握って、観客相手に吠えている姿を想像してみるといい。「あんなヤツ、1分で倒してやる!」とか何とか叫んで、ファンは大喝采で盛り上がるけれども、本当に1分で勝ってしまったら番組が成立しなくなる。
だから山あり谷ありの勝負になるし、ときには覆面レスラーが飛び込んできたりする。トランプ氏と支持者の間には、こんなプロレスのような「文法」がある。ところがメディアはそれを何度も読み違えてきた。だから最近になって、こんなことが言われ始めている。
“The press takes him literally, but not seriously;
his supporters take him seriously, but not literally.”
(マスメディアはトランプ氏を言葉通りに捉えるが、真面目に受け止めてはいない。支持者はトランプ氏を真面目に受け止めているが、言葉の内容にはこだわらない)
トランプ氏の発言を言葉通り(literally)に捉えると、「次期政権がメキシコとの国境に壁を作らなかったら公約違反になる」(支持者が怒るだろう)などという勘違いしてしまう。だがそれは、「あのレスラーはちゃんと1分で敵を倒さなかったじゃないか」と文句を言うに等しい。純正なプロレスファンは、「こいつ、何もわかっちゃいねえな」と呆れることだろう。かくしてメディアにはトランプ支持者が理解できず、トランプ支持者はメディアを無視するようになっていったのである。
明日の世界を占うトランプ劇場に参加するには、何はさておきこの独特の「お作法」を学習しなければならない。なに、そんなに難しいことではない。プロレスファンの心情が理解できればよいのだ。知性と品位があり過ぎる人は苦労するかもしれないが。
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