大量運休で信用失墜のスカイマーク 格安航空が嵌った罠
新規航空会社のスカイマークが、大量運休という前代未聞の大失態を演じている。5月末に機長2人が退職したのを受けて、運休は6月に168便、7月に292便、8月に173便と3カ月間で合計633便に上る。羽田~神戸線など全6路線で、運航予定便数5403便のうち1割超が対象となる。航空会社の最大商戦期である夏季運休の影響は大きく、今期業績予想は決算発表から1カ月も経たないうちに、大幅な下方修正を余儀なくされた。
航空会社は通常、待機要員を確保して万全な態勢を整える必要がある。しかし、スカイマークは格安航空を維持するため、ギリギリの人員コストで回していた。このツケが、機長2人の退職によって一気に顕在化した格好だ。経営陣が問題を先送りにしてきた結果が招いた失策といえる。新規参入会社を手塩にかけながら、見抜けなかった国土交通省にも責任がある。
乗員は慢性的に不足
週刊東洋経済が入手した5月13日付のスカイマークの「日令会報」には、「欠航理由について、乗員繰りは機材繰りに統一する。欠航理由は、整備、機材繰り、WX(気象状態)のいずれかとなる。即日有効とする」という会社側の指示が明記されている。これに対し、各部門責任者約30人の承認印がずらりと並ぶ。いかにも欠航理由から「乗員繰り」という項目を排除したい意図が垣間見える。
3月下旬には、各パイロットが加盟する労働組合の日本乗員組合連絡会議(日乗連)が「スカイマークは表向きは機材繰りでキャンセルしているが、乗員がいないのが実情」と慢性的な人員不足を指摘していた。今年に入り欠員による運休が30便はあったようだ。現行の航空法では、運休計画を出す必要はあっても、運休の理由を明確にする義務はない。だからといって、安全面に密接に関係する運休理由をあいまいにしてきたことは問題だ。
日乗連は調査結果を基に、所管官庁の国交省に対して早急にスカイマークへの監査・指導を要請したが、国交省は「日乗連に限らず、こうした要請や要望はよくあること」(幹部)と対応措置をとることはしなかった。
それから2カ月ほど経った5月27、28日。国交省は定期検査でスカイマークに入った。まさに機長2人の退職とタイミングが合致する時期だが、スカイマークは大量に運休が出る見通しを把握しながら一切報告しなかった。見抜けなかった国交省も、監督官庁の責任を果たせなかったことになる。スカイマークは6月2日の運休発表直前まで、「運休便」の予約を取り続けた。結果的に、利用者約1万5000人に迷惑が及んだ。
スカイマークは機長が確保できない理由について「世界の需給逼迫の中で獲得競争が激しい」と説明するが、労使関係の悪さなども影響していたようだ。スカイマーク関係者によると「西久保愼一社長が就任した2004年以降、社内の雰囲気がガラッと変わった。過度な成果主義などで不満が高まっていった」と語る。さらに「今年3月末に副操縦士7人が退職し、7月にも1人辞める予定。今まで20人以上が退職した」とは異常事態だ。05年から06年にかけても不満を持った整備士が一斉退職するなど、社内のトラブルは絶えない。
規制緩和で新規航空会社が就航してからはや10年--。多くの新規参入組が大手にのみ込まれる中、スカイマークは独立独歩を貫いてきた。格安料金で風穴をあけた功績も大きい。前期決算で3期ぶりの黒字回復を果たし、中部国際空港への乗り入れなど路線拡大も計画する。しかし、肝心の企業体質は未熟なままだ。大手へ成長を遂げるまで、その道のりは遠い。
(冨岡 耕 =週刊東洋経済)
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