欧米の中央銀行は「情報開示」し過ぎている イエレンもドラギもなぜあんなに話すのか

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中銀に関する情報の流れは現在、足りないどころか過剰になっている。中銀自体からの発表はほとんどないものの、当局者のインタビューや講演、記者会見、議会証言など、その意図をうかがわせるものは数多い。市民や議会だけでなく、市場に対しても開放度が増したことは、物価安定を求める中銀の金融政策の新たなモデルを形成した。

 このような枠組みの下では、言葉は行動と同程度の意味を持つ。そして中銀の当局者がインフレ期待を形成することを可能にしている。

2008年の金融危機で、こうした情報発信の必要性はさらに増した。中銀の当局者は景気を回復させてインフレ目標を達成するための非常措置を正当化しなければならなかった。特に、債券購入を伴う量的緩和が急激なインフレにはつながらないことを、国民と議会に保証する必要があった。

最近の例としては、ECBは、ドイツを中心とするユーロ圏の節約者を悩ましているマイナス金利政策を擁護せねばならなかった。ドラギECB総裁は今秋、ベルリンでドイツの国会議員に対し、マイナス金利には借り手を救済するなどして経済的利益を拡大させる効果があると強調した。

金融危機以前には、中銀当局者は金融政策の効果を高めるため、政策の変更をうかがわせるようなヒントを事前に漏らさないように心がけていた。だが、中銀は現在、「フォワードガイダンス(政策方針の提示)」を通じて、金融政策への期待を形成しようとする試みを強化している。

「雑音」まで出す必要はない

フォワードガイダンスからは、短期的な決定に関するヒントだけでなく、長期的な金融政策を読み取ることすら可能になってしまう。もしもフォワードガイダンスがあまりにも野心的であると証明されれば、中銀内部での反対に基づいて、情報発信が後退してしまう恐れもある。

多弁だったり口論を好む中銀当局者は、情報発信によって得られる利益を台無しにしてしまう。雑音の混じったシグナルは効力を失うのだ。金融政策立案者の発言内容に熱い視線が向けられることは、市場が中銀にいかに依存しているかを示しているわけだが、中銀と市場の双方が最近、この関係を意識しすぎていることは憂慮すべきだ。

こうした状況は、金融政策の設定正常化を通じて、繊細かつ段階的に是正されねばならない。一方で、中銀当局者が控えめな情報発信を行うこと自体には、何の問題もない。

ただ、中銀当局者はロックスターとは違う。喝采を浴びたいと望むべきではないのだ。

筆者のポール・ウォーレス氏はエコノミスト誌の元欧州経済担当エディター。このコラムは同氏の個人的見解に基づいている。

 

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