西友再建の茨道 ウォルマート試される本気度
世界最大の小売業者、ウォルマートが西友の完全子会社化を発表、撤退観測に自ら終止符を打った。業務提携から5年、一度も黒字浮上しない西友に追加投資する理由とは。(『週刊東洋経済』11月3日号より)
「西友を買いませんか」。今春から夏にかけて小売り各社や大手商社の幹部は、外資系投資銀行からの訪問を頻繁に受けていた。
投資銀行は複数あり、西友の筆頭株主であるウォルマートの意を受けていたかは定かでない。ウォルマートの売却を見越し、先んじて動いていた可能性もある。訪問を受けた企業の幹部は「買収メリットがなくお断りしたが、ウォルマートが売却するものと思い始めていた」と打ち明ける。
そんな見方を打ち消したのはウォルマート自身だった。同社は10月22日、西友の完全子会社化に向けた株式公開買い付け(TOB)を発表。最大で1000億円を追加投入する。「西友に対して強力にコミットすることを明確にした。これで従業員や取引先が安心するだろう」。ウォルマートのブレット・ビッグス上級副社長は会見の席上、何度もそう強調した。
米国外の投資を拡大
今回の完全子会社化には複数の事情が絡み合っている。
西友は今期(2007年12月期)、減損処理などで6期連続の最終赤字となる見通し。下方修正を発表した8月以降、株価は100円を割り込み、19日終値で87円まで下落していた。「上場にはコストがかかる。“倒産株価”で上場を維持するメリットは何もない」(業界関係者)。
さらに格付け会社が西友の格下げの検討に入ったことで、単独での資金調達の選択肢が狭められていた。「メインバンクのみずほコーポレート銀行が支援策をまとめる動きはなかった」(関係者)ともされる。金融機関との関係維持のためにも、ウォルマートによる追加支援が必要な情勢だったのだ。
一方、ウォルマートの事情も見逃せない。「米国での投資を抑制する代わりに海外事業に資金を投入する」。西友に対するTOB発表直後の24日(米国時間23日)。年に一度開かれる投資家向け説明会で、ウォルマートは新しい中期計画を公表した。
同社は今後3年で米国での投資を2~2・5割削減。それに対し海外投資を06年度の4000億円から09年度6000億~6700億円に増やす。米国では店舗網の飽和で伸び悩みが続いている。米国は採算重視、成長は海外との姿勢を明確にした。西友への追加投資もこの延長線上だ。
ウォルマートは現在世界14カ国に店舗を展開する。1996年に中国、今年8月にはインドに進出する一方、06年にはドイツ、韓国から撤退している。日本市場は世界2位の規模ながら、スーパー上位20社のシェアは21・4%。他の先進国と比べ寡占化が進んでおらず、そこにチャンスを見いだした。
とはいえ、実はウォルマートの海外事業は、同じ英語圏であるカナダ、英国を除き、先進国での成功事例がほとんどない。「異文化において、ウォルマートは人材をマネジメントする能力に乏しい」(ウォルマートに詳しいR2リンク代表の鈴木敏仁氏)との見方もある。今年半ば、西友の経営陣は一新されたが、日本人トップの野田亨最高執行責任者(COO)は英会話のベルリッツインターナショナル会長兼社長からの転身で、小売業の経験はない。
現在西友はウォルマートとの提携後、2度目の希望退職を実施している。今回のTOBはそのさなかでの発表だった。「順序が逆。希望退職の前に発表するのが筋」(競合他社)。希望退職は本社の管理職を対象にしており「西友の中核をなす人材が抜ける」(取引先)懸念もある。
ウォルマートは投資家向け説明会において、今後3年で西友の収益改善を図る方向を示した。ただ�親子�の足並みがそろっていない側面は否めない。西友の再生は、不透明感を払拭できていない。
(書き手:並木厚憲 撮影:梅谷秀司)
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