ラーメンFCで苦戦するホッコクが決算発表翌日に大幅増額した理由
ホッコクの展開する「どさん子」ラーメンチェーンは、最盛期に約1200の加盟店を擁したが、最近は個人加盟店主の高齢化により廃業が相次ぎ、FC数はピークの3分の1まで落ち込んでいる。穴を埋めるべく採算のよい「みそ膳」などの直営店を増やしてはいるが、出店は年間で多くても5店舗。FC閉鎖が20店に達する状況では多勢に無勢だ。前2008年3月期は、減収に加え、内部統制関連費用の増加と法人加盟店拡大のためのコンサルティング費用を理由に営業赤字に転落した。そんなホッコクが、前期決算発表の翌日21時過ぎに、今09年3月期見通しについての大幅な増額修正を発表、翌日の取り引きでホッコク株はストップ高になった。
5月26日の前期決算発表時に開示した決算短信記載の業績予想は売上高32億円、営業益1.2億円、経常益1億円、最終益2.4億円。増収、黒字復帰の要因は、そば居酒屋チェーン(売上高2億円強、営業益1000万円強)の営業譲受、直営店の前期出店分フル稼働と新店上乗せ、法人加盟店の増加などがFC20店閉鎖を上回るというものだ。ホッコクの現状を考えると、努力目標に近いのだが、それ以上に疑問符が付いたのは最終益。なぜなら、決算と同時に東京都中央区日本橋室町に所有するホッコクビルを三井不動産<8801>に売却し、24億円強の売却益を計上する、と発表していたからだ。最終益が一桁違うのではないか、と誰もが思う。実際、決算短信を審査したJASDAQから「分かりにくい」と待ったがかかり、文言を修正する必要から決算発表は当初予定より6時間以上遅れ、19時38分となった。
24億円の特益がありながら、最終益が2.4億円にしかならないのは、ホッコクが税制上の優遇措置、圧縮記帳の利用を予定していたため。圧縮記帳とは、固定資産を売却後、一定期間内に代替資産を取得すれば取得価格を損金処理することで売却益への課税が軽減できるというもの。圧縮記帳を使わないと、売却益の半分近くが税金で外部流出する。
日本橋室町は三井不動産のお膝元で、近年、三菱地所の丸の内に対抗して大規模な再開発が進行中だ。以前にも、同物件に対しては買収の打診があり、その時はホッコク側はさらなる値上がり期待もあって様子見の姿勢を示したが、今回は思い掛けない額を提示されて喜んでサインした次第。ただ、不動産賃貸が経営を下支えする現状では、賃貸物件の減少は業績悪化を意味するため、別の賃貸用不動産を購入する必要がある。圧縮記帳の利用は必然的だった。
問題は、開示の仕方にある。ホッコクは特別益に対し、税制上の概念である圧縮損をぶつけることで業績予想の最終益を小さくする方針だったが、そこまでは短信に記載しなかった。しかも、税理士によれば「圧縮損を立てて、損益計算書上で税務申告に必要な事項を盛り込むのは中小企業まで、というのが一般的」。上場企業としては小粒でも、非上場会社から見ればホッコクは大企業で、本来は株主資本変動計算書で圧縮積立金を立てるべきだった。税務的にはOKでも案の定、会計士からは適当ではないという意見が出て、その結果が、表記のような大増額というありさまだ。会社としては、売却益が出ても代替資産を購入するので株主還元はできないことを表現したかったのだが、かえってそれが増額修正という形でストップ高を招いたのは皮肉としか言いようがない。
もっとも、増額理由はそれだけではない。修正発表には京都の経営コンサル会社、日本エル・シー・エー<4798>の外食コンサル部門を16億円で買収することも盛り込まれている。法人加盟店拡大のためにコンサルティングを依頼していた先で、買収により売上高で16.5億円、営業益で2.8億円のかさ上げが見込まれるため、営業益も表記のように期初(と言っても1日前だが)よりも増額となる。日本エル・シー・エーとホッコクとは、ともに都市綜研インベストバンクが大株主という関係だ(ホッコクでの名義はティエス・アドバイザーズ)。
ホッコクはもともとFC向け食材卸として上場したが、前期に最後の工場である船橋工場を閉鎖、さらに創業者の株式譲渡による筆頭株主の異動、筆頭株主からの社長受け入れ、筆頭株主の主導による不動産業への傾斜などを理由に「不適当な合併等」を理由に上場猶予期間入りしたばかり(途中、筆頭株主はティエスから紹介を受けたファンドになっている)。当初は利益水準が低く再審査に臨むには時間がかかると見られたが、事業買収で早期の受審が可能になった。
なお、圧縮損を立てることに疑問を呈した監査法人トーマツは任期満了を理由に6月の株主総会を以って退任することが決まっている。
《東洋経済・最新業績予想》 (百万円) 売 上 営業利益 経常利益 当期利益 連本2008.03 2,606 -55 -26 -139 連本2009.03予 4,850 400 380 1,600 連本2010.03予 5,000 450 430 220 連中2007.09 1,281 15 5 -3 連中2008.09予 2,200 180 170 1,400 ----------------------------------------------------------- 1株益\ 1株配\ 連本2008.03 -11.3 3 連本2009.03予 111.8 3 連本2010.03予 15.4 3 連中2007.09 -0.4 1.5 連中2008.09予 97.8 1.5
(株)東洋経済新報社 四季報オンライン編集部
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