夢の抗がん剤「オプジーボ」が半額になる衝撃 年間3500万円の価値はどれほどのものか
一昔前、薬が世に出るまでには、10年余りの歳月と数百億円の研究開発費がかかるとされた。それが今では1000億~1500億円にも膨れ上がっている。新薬、特に難病の薬を開発するというチャレンジをした企業には、それなりの対価を与えないと、開発意欲がそがれ、次の開発につなげられない。オプジーボの薬価は、決して“法外”だったわけでない。
オプジーボを端的に言えば、「免疫チェックポイント阻害薬」という種類の薬だ。人間が持つ免疫細胞にはもともと、がん細胞を攻撃する力が備わっている。本庶氏らはPD-1という分子を発見し、これが免疫細胞の動きを抑えてしまう免疫チェックポイント分子と捉えた。オプジーボの働きは、PD-1を阻むことで免疫細胞を再活性化させ、がんを攻撃するように仕向ける薬(抗PD-1抗体)、と言ってよい。
近年、流行している抗がん剤としては分子標的薬があるが、これは特定のがん細胞の増殖に関わる分子に働きかけるもの。一方、免疫細胞に作用する治療は当初から、がんの種類を問わず効く可能性を秘めていた。
値下げの幅も時期も「特例」の扱い
様々ながんについての臨床試験で患者への投与が試みられてきた。中でも、治療成績のよかった非小細胞肺がんや腎細胞がん(いずれも切除不能の場合)など、患者数の多いがんには次々と適応が広がっていき、同時に、製薬メーカーにとっては売り上げや利益も急拡大している。
とはいえその多くは、”効く可能性”のままで終わることもあり得る。オプジーボの場合、非小細胞肺がんや腎細胞がんでも順次承認されたが、いずれも厚労省の見込みが甘かったわけではない。かつて厚労省で新薬の治験・承認審査、薬価制度の関連業務に従事していた北里大学薬学部の成川衛教授は、「たとえ、半年後にこんなに対象が増えると仮に分かっていたとしても、日本の薬価のルール上は高額になっても仕方がない。いかに機動的に見直すかが重要だ」と語る。
かくも高額な薬剤だが、実際にオプジーボを使う個々の患者にとっては、薬代で身を崩さなくても済む。日本の公的医療保険には「高額療養費制度」という仕組みがあるからだ。例えば70歳以上であれば、収入に応じて、月額の自己負担は1万5000~8万円で済む。医療費の負担で圧迫されるのは、個人ではなく国の保険財政なのだ。
1度決まった薬価は永久に続くものではない。薬剤の価格はすべて、2年に1度の診療報酬改定によって、市場の動向に合わせ見直される。2016年度からは、年間販売額がきわめて大きい品目は、「特例市場拡大再算定」の扱いとなった。対象が拡大したオプジーボは、販売額が1500億円超と算出されたため、特例で最大の50%引き下げとなり、かつ、2年を待たずしての値下げとなった。
ではオプジーボの実力はいかほどなのか。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら