ラジオの衰退に抗う「スマホ聴取」の可能性 聞き直しや地域またぎで再発見される価値

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権利者団体の1つである日本音楽事業者協会専務理事の中井秀範氏は、「ラジオはテレビとは違うメディアとしての価値があり、音楽業界との信頼関係を築いてきた」と話す。ラジオは90年以上の長い歴史の中で、アーティストのプロモーションの場を提供してきた。「吉本興業でマネジャーをしていた頃、売れる前のダウンタウンや明石家さんまをラジオ番組に出演させてもらい、実力をつけさせてもらっていた」と中井氏はいう。

冒頭の宇多田ヒカルのブレークのきっかけも、ラジオでの楽曲放送だった。話し合いの結果、1番組あたり聴取可能時間は3時間という制限が設けられたものの、ラジオは過去1週間以内であれば放送後に、ほぼ全番組をいつでも楽しめるようになった。

スマートフォンでラジコのアプリを開くと、自分がいるエリアで放送中の番組一覧が出てくる。「タイムフリー」と書かれた文字をタップすると青色の背景が赤色に変わり、過去番組が表示される。検索マークをタップし「宇多田ヒカル」など好きなアーティストの名前を入れると過去1週間の中で「宇多田ヒカル」が取り上げられた番組一覧が現れ、楽曲などを聴ける。楽曲ごとにマイリストに登録すればオリジナルのプレイリストの作成も可能だ。

新しいラジオの楽しみ方を

たとえば、宇多田ヒカルの番組で流れた藤圭子の楽曲がスタートする地点でシェアをタップし、LINE、Facebook、Twitterで友人に送れば、受け取った友人は番組途中に流れた藤圭子の楽曲から聴くことができる。音楽だけではない。「大統領選挙」といった気になるワードを入れると、過去1週間の間に「大統領選挙」について触れた番組が出てくる。

「ラジオは新しい音楽の発見のほか、情報収集にも役立つ。ラジオ世代はもちろん、既存のラジオを知らない若い人にこそ新しいラジオの楽しみ方を見つけて欲しい」とラジコを手掛けるradiko業務推進室長の青木貴博氏は期待を膨らませている。

今はタイムフリーによる聞き直しでリアルタイム放送と同じCMが流れても広告費を加算してもらう枠組みはないが、広告価値の低下を食い止め中期的にはCM単価アップにつなげられるかもしれない。

「ラジオ端末がスマホになったことで画面が追加された。音楽に合わせて映像を付けるなどで新しい広告手法や媒体の価値を加えることができる」と関西大学社会学部メディア専攻の三浦文夫教授は見ている。たとえば流れている音楽についてアーティスト情報を知らせることができる。

ラジコは位置情報を拾い、利用者が今いる放送エリア内の番組しか聴取できないように制御しているが、その位置情報を使って、サッカーの観戦中に音声中継や選手の情報などをラジコ経由で配信することもできるだろう。音楽ライブ会場でラジコ所有者だけにセットリストを配信することもできる。利用者の位置情報に合わせて災害情報を送るということにも役立てられる。

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