アメリカでは、連邦政府の予算編成権は大統領ではなく議会が持っている。また、会計年度は10月1日から翌年9月30日までである。大統領は、自らが推し進めたい予算要求を「予算教書」として、例年2月初めまでに連邦議会に提出する。しかし、これには法的拘束力はなく、連邦議会の上下両院がこれを参考にしつつ予算関連の議案を作成する。予算案の本体は、歳出予算法案という形で、上下両院の歳出委員会の分野別小委員会で作成し、審議され、新年度が始まる前までに両院の本会議で同一の法案を可決する。その後、大統領の署名を経てはじめて成立する。
こうみると、トランプ新政権の財政政策については、減税とオバマケアの見直しは実施される確率が高いとみてよいが、インフラ投資の拡大や高齢者向け医療給付の維持や(減税と歳出増に伴う)財政赤字の増大は、大統領と議会共和党の力関係次第で決まると考えられる。
財政赤字が確実に増大するとは限らない
共和党主流派との関係修復が進まないままでは、大統領が推進したい政策や法案は、連邦議会で通らない。だから、トランプ氏が選挙期間中に減税とインフラ投資拡大を唱えていたから、アメリカの財政赤字は今後確実に増大する、とみるのは早合点である。強いて言えるのは、過去3人の共和党の大統領(レーガン、ジョージ・ブッシュ、ジョージ・W・ブッシュ)は、「小さな政府」を標榜する共和党政権でありながら、結果的に財政赤字を増やしていた事実までである(皮肉なことに、その後の民主党政権で財政赤字が縮小している)。当然、その政権期の議会との関係で、こうした結果となっている。財政赤字が増大すれば、アメリカ国債金利の上昇圧力となり、これがドル高円安要因になるとみられるが、これも大統領と議会共和党との力関係である。
トランプ氏が当選した事態をみて、「民主主義の擁護者を失った」とみるのは大げさだ。議会共和党の協力なしに、トランプ次期大統領が政策を思い通りにできるわけではない。財政政策は、特にである(反対に、大統領に強い権限がある外交はその限りではない)。予算編成権が議会にあるアメリカで、財政民主主義は、そう簡単に、なくなりはしない。
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