トランプ政権の「破壊力」は最初から爆走する 今度の共和党政権はブッシュ時代と全く違う

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方針としてその時すでに、共和党は国と有権者をできるだけ白人が多いままにしておくことに力を注いでいたのだ。トランプが行ったことは、人種差別主義、排外主義、性差別主義、反ユダヤ主義という、共和党非主流派で表明されていた信条を、党の主流に持ち込んだということだ。

実際はトランプは長い歴史を持つ共和党の右向きの運動を早めただけなのである。下院議長ニュート・ギングリッチによる1995年の議会の代議員団の獲得がキャピトル・ヒルにおける穏健な共和主義の終わりのシグナルになったのと同じように、茶会派(ティーパーティ)の出現が、Foxニュースの解説者の長談義が、ブライトバート・ニュースの隆盛が、そして今やトランプの成功が、10年前の頑固な保守主義者でさえ取り残されていることのシグナルになっている。

ニュータイプの共和党員が中西部を支配していた

それが如何にダイナミックに展開したのかを描き出すためには、中西部の州を見るだけでいい。ニュータイプの共和党員が2010年の選挙以来ずっと州議員と州知事の両方を支配しているのだ。かつて労働組合の砦であったウィスコンシン州、インディアナ州、ミシガン州、これらの州政府はいわゆる労働権法を成立させ、著しく労働者組織を弱体化させた。かつてはこのような法律は南部の州に限定されていた。

カンザス州では、サム・ブラウンバック州知事が共和党の議会の同僚たちと、公立学校に十分な資金を供給できなくなりかけるまで、富裕層の減税を行った。これまで南部白人地域が中心だった反政府的で反労働者的な価値観は、いまや国中の共和党が権力のレバーを握っている場所に広がっている。

新たな政権下でワシントンもそうなるだろう。トランプは富裕層への減税を望んでおり、共和党議会もそれを喜んで行うだろうから、効果的に新たな経済的不平等の期間が始まるだろう。オバマケアは撤回され、結果として2000万人のアメリカ人が健康保険を失う可能性がある。

トランプによる欠員中の最高裁判事の任命によって共和党系が多数派を占める最高裁になれば、それによって、投票権法はさらに骨抜きになり、性と生殖に関するさまざまな権利は奪われ、残った数少ない勢力といえる労働組合は損なわれる、ということになりそうだ。民主党が議事妨害によってトランプの被任命者を阻止することは当てにできない。今日の急進的な共和党員は圧倒的多数を武器に、ナノ秒の間に民主党の反対を突破し、新判事の任命とさまざまな立法行為を断行するだろう。

とはいえ、ヨーロッパの白人至上主義政党のリーダーたちと同じように、トランプも共和党支持層である高齢白人向けの社会保障制度を削減することは好まないはずだ。よって彼は、社会保障と高齢者向け医療保険制度の削減を求める従来型の小さな政府主義の共和党議員が求める圧力には抵抗するだろう。

トランプと共和党員は、外交政策に関しても意見が合わないだろう。なぜならばトランプが行っている世界を良いやつと悪いやつに分ける方法は、主にその国のリーダーが十分に権威主義的かどうか、十分に彼に敬意を払っているかどうかに基づいているように見えるからだ。

しかし、もし司法当局とFBI(連邦捜査局)が彼の政敵を取り締まり、急増する不法移民が国外退去になるならば、ほとんどの共和党議員は彼の行動を妨げるようなことをしないのではないかと疑っている。トランプがいなかったとしても、共和党は、より白人の、より高齢者の、より郊外の、より教育を受けていない、より偽りの事実や激しい偏見に不安を抱くような人々の勢力が強まっていた。

これからの政府の政策は、間違いなくこの共和党の支持基盤の価値観を表わすものになるだろう。ブッシュを懐かしむ気持ちは、すぐに高まり始めることだろう。

(Harold Meyerson)
 

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