トランプ当選で米国株は上昇の可能性もある 実は金融市場はトランプを拒否していない

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その一方、「トランプ大統領誕生で、米国の財政赤字が急拡大する」という主張もある。トランプ大統領の政策が功を奏さなければこうしたリスクが高まることは確かだと思われるが、当面の市場が抱く期待と懸念を組み合わせると、トランプ大統領誕生は、株式市場にとってはプラス、債券市場にとってはマイナスに作用する可能性がある。

12月の利上げの可能性はむしろ高まった

また、トランプ大統領誕生が現実になった今、市場の関心は、大統領選挙への影響に配慮してこれまで利上げを先送りしてきたFRB(米連邦準備理事会)が、12月に追加利上げに動くかどうかに向けられることになる。

「トランプ大統領誕生で市場が混乱を来たす恐れがあるから、FRBは12月の利上げを先送りする」という見方もある。だが、筆者はFRBが12月に利上げに動く可能性は高まったと考えている。

それは、金融が大幅に緩和された状態で大規模な財政出動が行われれば、イエレンFRB議長が恐れている「Behind the curve(政策が後手に回る)」のリスクが大幅に高まるからだ。

また、政治的圧力を嫌うFRBにとっては、共和党員ではないという理由でイエレンFRB議長の更迭を明言していたトランプ大統領誕生によって利上げ先送りをするという、政治的圧力に屈するような形は避けたいはずである。

これまで金融市場は「もしトラ」リスク(もしもトランプ大統領が誕生したらというリスク)に強い警戒感を示してきた。しかし、それはトランプ大統領以外に好ましいと思われる選択肢が存在していたからだ。大統領選挙が終わり、ヒラリー・クリントン大統領という選択肢が消えた今、トランプ大統領がこれまでと同じように市場のリスクとはなりえない。

金融市場が最も恐れるのは不確定要因であり、トランプ大統領が確定となり受け入れなければならなくなった以上、リスク要因としてはこれまでよりも小さくなっていくのは、自然な流れである。

一方、トランプ大統領誕生によって、TPP(環太平洋経済連携協定)を成長戦略の柱の一つに据えてきた日本は苦しい立場に追いやられそうだ。

「注意深く市場の動きを見ながら、今まで見られたような投機的な動きがさらに継続するようなことがあれば、必要な措置をとりたい」。財務省の浅川財務官は、トランプ大統領誕生の可能性が高まり101円台まで一気に円高に振れたことをうけ、市場を牽制した。

だが「クリントン候補勝利の思惑による円安・株高には目をつむり、単に市場の思惑が外れた結果に伴う円高株安だけを投機的と主張しているように見える日本政府の立場は、どう考えても虫が良すぎる。これも、日本の苦しい立場の裏返しでもある。

財務官の主張は悪い冗談のレベルである。だが、トランプ大統領誕生による市場の混乱と、それを背景としたFRB利上げ先送り観測などが高まることなどで100円割れの危機が迫るような場合、日本の当局が介入に踏み切る可能性は高いと考えておいた方が賢明だ。

金融政策に限界が見えている中で、対外要因による円高は、政府にとって介入の格好の言い訳になるうえ、政権交代を控える期間はタイミングとしても好都合だからだ。

「Change」をスローガンに8年前に初の黒人大統領となったオバマ大統領。今回オバマ政権の政策の継続性を武器に女性初の大統領を目指したクリントン候補が、政策の継続性を否定するトランプ候補に敗れたのは、何とも皮肉だ。トランプ大統領誕生は、日本政府も市場参加者も「Change」していく必要があるという、日本への警鐘としてとらえるべきかもしれない。
 

近藤 駿介 金融・経済評論家/コラムニスト

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こんどう しゅんすけ / Shunsuke Kondo

1957年東京生まれ、早稲田大学理工学部土木工学科卒業後、総合建設会社勤務を経て、31歳で野村投信(現野村アセットマネジメント)に入社。株式、債券、先物・オプション取引等を担当した後、野村総合研究所に出向しストラテジストとして活躍。再び、野村アセットに戻ってからは、担当ファンドが東洋経済の年間運用成績第2位に選出されるなどファンドマネージャーとして活躍。その他、運用責任者として、日本初の上場投資信託(ETF)である「日経300上場投信」の設定・上場を成功させ、1996年に野村アセット初のプロフェッショナル・ファンドマネージャーとなる。現在は金融や資産運用に関する客観的な知識を広めるべく、合同会社アナザーステージを立ち上げ、会長兼CEOとして、一般向けの金融セミナーや投資セミナーなど専門家向けセミナー等も開催中。自身が手掛けるメルマガ『マーケット・オピニオン』は、個人投資家から圧倒的な支持を得る。

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