「ヒラリー勝利」の前提で忘れられていること 「もしトラ」「もしクリ」どっちのリスクが大?

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ただ、状況は複雑だ。確かに市場の短期的反応は、クリントン大統領誕生となれば株高、ドル高に、トランプ大統領誕生となれば、その反対になる可能性は高い。

少し前なら「もしトラ」リスクが現実のものになったとしても、まさかに備えてガードを上げてきた市場の反応は、巷で言われているほど大きなものにはならず、一時的なものに留まる可能性が高かったはずだ。

だが再度クリントン候補優勢が伝えられる中、市場のリスクは低下している。ここで忘れてはならないのは、市場が見込む「もしトラ」リスクの多寡と、トランプ大統領誕生が現実になった場合の市場の反応は逆相関の関係にあるということ。市場が認識する「もしトラ」リスクが低下したということは、リスクが顕在化した場合に市場は打たれ弱くなったということだ。

中期での「もしクリ」リスクが軽視されている

むしろ筆者には、相対的に「もしトラ」リスクが低下するなかで、「もしクリ」リスク(クリントン大統領が誕生した場合のリスク)が、軽視され過ぎているように思われる。これこそが大きな懸念材料ではないか。

どういうことか。そもそも「もしトラ」リスクが高まった大きな要因は、クリントン候補の不人気だ。今回、私的メール問題が不訴追になったことで「もしトラ」リスクは低下したかもしれない。しかし、それはクリントン候補に対する支持が積極的に高まった結果ではなく、トランプ候補からの口撃によってこれ以上の支持率低下を食い止められるだろうという、消極的なものでしかない。

つまり、最大の「もしクリ」リスクは「クリントン大統領が誕生すれば政策的継続性が維持される」という漠然とした期待が強過ぎることだ。

確かに、外交的な部分ではその通りだと思われる。だが、経済政策に関しては、民主党候補者選びの中で、ライバルで社会主義者に近いともいわれるバーニー・サンダース氏の主張を取り入れて来ており、オバマ政権との政策的継続性が維持される保証は、言われているほど高くない。

会計事務所のデロイトトーマツグループが発表した調査結果によると、日本企業の最高財務責任者(CFO)の7割が「トランプ大統領誕生が米国経済の最大のリスク」だと考えており、「クリントン大統領誕生がリスク」だと考えているのは僅か5%にとどまっている。こうした調査結果は、日本企業が「もしクリ」リスクに対する備えをほとんどしていないことを示唆するものである。

今回の大統領選挙が、市場にとって「透明性が高まると感じる結果」になるか、「不透明性が高まると感じる結果」になるかは、今の時点では定かではない。

確かに、短期的な市場の反応は巷で言われている通りのものになるだろう。しかし、中長期での反応という観点では、クリントン大統領誕生に対して過剰な安心感を持っているという点において「もしクリ」リスクの方が大きいことは、頭の片隅に置いておく方が賢明だ。

近藤 駿介 金融・経済評論家/コラムニスト

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こんどう しゅんすけ / Shunsuke Kondo

1957年東京生まれ、早稲田大学理工学部土木工学科卒業後、総合建設会社勤務を経て、31歳で野村投信(現野村アセットマネジメント)に入社。株式、債券、先物・オプション取引等を担当した後、野村総合研究所に出向しストラテジストとして活躍。再び、野村アセットに戻ってからは、担当ファンドが東洋経済の年間運用成績第2位に選出されるなどファンドマネージャーとして活躍。その他、運用責任者として、日本初の上場投資信託(ETF)である「日経300上場投信」の設定・上場を成功させ、1996年に野村アセット初のプロフェッショナル・ファンドマネージャーとなる。現在は金融や資産運用に関する客観的な知識を広めるべく、合同会社アナザーステージを立ち上げ、会長兼CEOとして、一般向けの金融セミナーや投資セミナーなど専門家向けセミナー等も開催中。自身が手掛けるメルマガ『マーケット・オピニオン』は、個人投資家から圧倒的な支持を得る。

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