本当の格差は「無形資産」によって生まれる リンダ・グラットン氏、安倍首相夫人と共演
安田:その差を広げないために、個人でもできることを1点だけ『ライフ・シフト』に付け足させてください。それは、「スイッチング・コストを減らす」という教訓です。スイッチング・コストは、選択や行動を変える際にかかるコストで、金銭的な費用だけでなく、精神的、心理的な負担も含みます。これを下げるために有効な制度も考えられるでしょう。たとえば日本では、国内大学同士の交換留学制度がありません。生まれた場所でもない、育った場所でもない地域の大学に行けば、新たな土地で新たな人との出会いがあり、刺激が生まれます。池見さんもそうですが、環境を変えることは、スイッチング・コストを減らす有効な手段です。
昭恵夫人も先ほど田舎暮らしについて触れました。地方創生で足りないのは、おカネではなく、人やアイデアです。そもそも、自分が行ったことのない土地で働くスイッチング・コストは非常に高い。しかし大学時代に自分がそこで過ごしたという経験があれば、「行ってみようか」と思うわけです。日本人の数を増やすことができなくても、一人ひとりの地元を増やすことはできる。「無形資産」の積み重ねとともに、移動経験が必要なんですね。
安倍:養老孟司先生が以前、「現代版の参勤交代をすればいい」とおっしゃっていましたね。まず霞が関の官僚の方に1年くらい地方で勤務してもらう。学生も良いと思います。
グラットン:昭恵夫人のゲストハウス、また、安田先生のスイッチング・コストのお話は、「私にもできるかもしれない」「そういう生き方があるのか」と、自分のあり得る姿を考えるためにもとても重要ですね。
イギリスでも格差が問題になっています。貧困層は富裕層より12年も寿命が短いというデータもあります。私から言えることは、「有形資産」ではなく「無形資産」について人はもっと考えるべきだということです。必要とされるスキルは何かを考え、自分の生産性を上げていくこと、そしてバランスの取れた生活で活力を持つこと、自分を変えていく努力を惜しまないこと。企業もそれを後押ししていかなくてはいけません。
100歳の自分を想像する
浜田:最後に、ご自身の100年人生をどうお考えになるか、どう変えていくか、展望をお聞かせください。
池見:今の小学生が大人になった時、65%の人がまだこの世に誕生していない職業に就くというデータがあります。人材ビジネスの業界では、これから新たに仕事や職種を生み出していくことが大きな価値になるのではないかと思いました。
安田:私はノーベル経済学賞を狙えると思いました。論文が評価されるには時間がかかるのですが、これから100歳まで生きるのなら、60歳くらいまでに書けば間に合う(笑)。あとは子供の人生ですね。今4歳ですから、おそらく100歳まで生きる。何をすれば彼のスイッチングコストを下げられるか、より深く考えるようになりました。
安倍:私は遊び心が大事だと思っているんです。人からどう見られるかより、自分がワクワクできることは何か。それを皆が大事にできればいいのかなと思います。
グラットン:私は今61歳なのですが、100歳まで生きるつもりでいますから、そこでまず……来年、結婚することにしました。もし人生70年なら、その決断はしなかったでしょう。私達がより良い人生を送ろうと思うなら、首相夫人のおっしゃった遊び心はとても大切。これから先の40年がどうなるか、私はとてもワクワクしています。
(撮影:今 祥雄)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら