日本でテロが起きると死者が膨大になる理由

組織的な事態対処医療体制の整備が急務だ

日本は重症外傷傷病者の対応能力が海外から大きく後れをとっているため、日本国内でテロが起きた場合には死者が膨大になるおそれが大きい。その理由としては2点挙げられる。

1点めは、銃創、爆傷および刃物による致命的な外傷への対応能力の低さ。こうした外傷を負うことは日本では極めて稀なため、一般市民はもちろん医療従事者の関心も低い。

日本外傷データバンク報告2012によると、2007年から2011年の間の救急外傷患者の内訳では、銃創が0.1%、刺創等が3.1%である。これは日本が安全であることの証左であり良いことなのだが、時代の変化に合わせて対応能力を高めなければならないだろう。

2点めは、警察官や自衛官の救急処置能力と個人携行救急品が他の先進国と比べて不十分なことだ。そもそも救急医療の考え方が、JPTEC (Japan Prehospital Trauma Evaluation and Care/病院前外傷教育プログラム)の「3R」(The Right patient in the Right time to the Right place「患者を適切な時間で適切な病院へ搬送すること」)から、国際的な非常時の考え方である「4R」(The Right care to the Right casualty at the Right location and Right time「適切な治療を必要とする負傷者に適切な場所で適切な時間で提供すること」)に移行できていない。

特に、いざという時に大量の医療資源を動員するはずの自衛隊が「ゴールデンアワー」「プラチナの10分」を丸写しにした「10分1時間衛生ドクトリン」なるものを制度化しているのだ。第一線救護について検討を行う「防衛省・自衛隊の第一線救護における適確な救命に関する検討会」も実効性が乏しいうえに論点が大きく外れている。

同報告書の資料「医療資格を有する自衛官及び救急救命士の養成」によれば、自衛官である医師「医官」は陸海空を合わせて820名しかいない。防衛医科大学校の開校以来の卒業者数から定年退職者を差し引けば現在、約2320名の医官がいなければならないはずだが、現役は3分の1程度しかいない。自衛隊の医療従事者の90%以上は新たに養成しなければならない。欠員が生じたからといって一般の病院のように募集して補充というわけにはいかないのである。

医師数がこれだけ少なければ、平時の健康管理ですら機能破綻しているのではないか。これでは有効な施策を講じることはできないし、自衛隊内部からの改革もほぼ不可能なようにみえる。テロばかりではなく大規模自然災害への医療支援の屋台骨にも深刻な問題を抱えている。これが日本の現状である。

テロ対策のための最も重要な考え方

2020年には東京五輪を控えており、テロによって平時医療体制が破綻する危険度は増大する。テロに先んじて行われるような破壊工作が頻発してしまえば、日本国内は混乱し、国際的評価の低下、国力の弱体化につながり、他国からの侵略、すなわち戦争を招いてしまうことになりかねない。初期段階において有効に対策を講じることが極めて重要であり、有効な対策ができれば戦争抑止につなげることもできる。

自然災害や事故であれば、発生した瞬間と直後が最も危険度が高く、時間が経つにつれて収束に向かうことが多い。一方でテロや破壊工作では、有効な対応をしないまま時間の経過を許すと、危険度が増し、規模も大きくなりかねない。例えば、多くの人が利用する有名カフェで銃撃や爆発が発生したとしよう。テロリストは、この「陽動」で大量に発生した負傷者で医療体制を破綻させ、地域住民を混乱させ、交通渋滞を発生させるなど警察力を封じることを狙っている。その後、本来の目的である、より多人数の殺傷、要人の殺傷、重要施設の破壊を実行するのだ。

要人や重要施設は警備が厳重な「ハードターゲット」であるため、人が多く集まるカフェや郊外のショッピングモールなどの「ソフトターゲット」で多人数を殺傷し、関心をそちらに向けておくというケースも考えられる。テロリストの自由意志による攻撃は予測が難しく、危険度の推移を読むことが困難であり、状況が動的に変化することが特徴である。

自然災害のように一方的に事態が収束へと向かうのであれば、現場の努力や個人の能力で運よく対応できてしまうこともある。しかし、テロや破壊工作では、適切な組織による対応が必須だ。それが欠けたままの日本は、課題が山積しているといえるだろう。

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