首相の権力基盤は党内支持から国民の支持へ 自民党総裁任期の歴史的変遷から読み解く

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しかしなぜいま3選容認なのか、自民党の政治制度改革実行本部のまとめた「総裁任期の在り方」と題する文書には2つの理由を書いてある。1つは、英国など主な議院内閣制の国では主要政党の党首の任期規定がなかったり、あっても再選が禁止されておらず、自民党もグローバルスタンダードに合わせる必要があるという点。2つ目は、日本が少子高齢化や人口減少など長期的視点に立って取り組むべき課題に直面しており、「こうした課題を解決する大胆な改革を実現するには強いリーダーシップと一定の期間を必要とし、安定政権の確立が望まれる」という点を上げている。取ってつけたような理由付けだけは、これまでの自民党の歴史と変わらない。

ところがおもしろいことに、この文書には「あくまでも制度上の任期の見直しであり、これによって実際の在任期間やその間の政権の維持が保障されるものではない」とも書かれている。

実際、歴代自民党総裁で党則に規定された任期を全うして辞めたのは中曽根康弘と小泉純一郎の2人しかいない。長期政権となった佐藤栄作は実質的には任期満了だが、任期切れの3か月ほど前に辞任している。それ以外の総裁は国政選挙の敗北、自らの不祥事あるいは内閣支持率の低迷などを理由に任期終了前に辞任している。そういう意味では自民党総裁任期に実質的な意味はほとんどないのである。

自民党総裁ではなく首相の権力に一本化

日本の議院内閣制度は独特な面を持っている。法律的には首相の任期は憲法にも内閣法などほかの法律にも書かれていない。つまり首相は何年でも務めることができるのだ。ところが自民党総裁に任期規定があるため、総裁任期が来れば総裁だけでなく首相も辞めなければならない。つまり、景気対策などをうまくこなし国民の支持が圧倒的に高い首相であっても、自民党総裁任期が終われば辞めなければならない。形の上では自民党則が憲法よりも「上位」に位置するという、奇妙なことになっているのだ。

長い間、自民党総裁(すなはち首相)の権力の源泉は党内派閥の支持にあり、主流派と反主流派が争ってきた。しかし、今日の権力基盤は国民の支持に移った。行政府のトップである首相の推し進める内政・外交の政策が成果を上げなければ、国民の評価が下がり国政選挙で敗れる。

そういう意味では、内政と外交を担う最高権力者の首相と、自民党内権力闘争の勝者である総裁を区別する時代は終わり、前者の方に一本化されつつあるのだろう。自民党総裁任期が最大9年と最長に延期されたことは、安倍首相の思惑とは別に、自民党総裁=首相の政治的意味が大きく変質したことを示している。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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