――MRJの設計コンセプトとは?
リージョナル機もプロペラ式から今のジェット機になったが、それをさらに次のステージに進めたいという思いで開発を始めた。安全であるのは当然として、燃費がよく運航経済性に優れ、環境にも優しい飛行機であること。また、リージョナル機は狭いイメージがあるので、客室も快適にしたいと。自動車の性能がどんどん上がっているように、MRJで次世代のリージョナルジェットの姿見せたいと思っている。
空気抵抗、強度、重量のバランスが問われる
――MRJはライバル機に比べて最大2割以上の燃費性能改善をうたっています。これは米国プラット&ホイットニー社(P&W社)のエンジンによる部分が大きいのですか。
MRJが搭載するP&W社製の最新鋭エンジン「Pure Power PW1000G」は燃費がよく、騒音は小さく、排気ガスも少ない。非常に優れたエンジンで、MRJの燃費性能もこれに負うところが大きいのは事実。ただ、いいエンジンをつければいい飛行機ができる、という単純な話でもない。すばらしいエンジンをどううまく飛行機に積むか、いかにしてエンジンの性能をフルに引き出すか。そこは機体全体を設計する側の知恵、技術、工夫が必要になる。
――具体的に言うと?
PW1000Gは優れたエンジンだが、サイズが大きく、重量も重い。それをそのまま搭載すれば、空気の流れが乱れて大きな空気抵抗を招く。そこで、エンジンの周囲の形状を工夫し、空気抵抗を最小限に抑える設計にしてある。また、(大きなエンジンが地面に接触しないよう)主翼をやや反らせたうえで、エンジンの重量を考慮して主翼の強度も高めている。
燃費性能という点では、軽量化の効果も大きい。これまでのリージョナル機では、炭素繊維複合材の採用が「舵面(翼の可動部分)」や「フェアリング(腹部のカバー)」などに限られる。MRJは軽量化を図るため、尾翼も炭素繊維複合材で作る。機体全体に占める炭素繊維複合材の比率は9%。さすがにボーイングの「787」には及ばないが、100席以下のリージョナル機では突出した高さだ。
――高い燃費性能を実現するために、ひたすら空気抵抗を減らし、軽さも追求した?
もちろん、空気抵抗と重量を減らそうと必死に考えるわけだが、そこにはいろいろな制約が伴う。たとえば、抵抗を減らすことばかり考えると、機体や翼の形状は極端に細くなる。機体が細くなれば客室は狭くなるし、必要な装備品も入らない。翼にしても、薄くすればするほど飛行時の空気抵抗は減るが、その分、強度が弱くなってしまう。そこで強度を上げようと補強を加えていくと、今度は重量が増す。製造上の制約だってある。
こちらを立てればあちらが立たず、あちらを立てればこちらが、という具合にトレードオフの世界であって、そこに設計の難しさがある。大事なのは全体のバランス。製造上の制約を満たしつつ、空気抵抗や強度、重量などをいかに高いレベルでバランスさせられるかが重要で、開発企業としての力量が問われる。こうした作業については、自分たちでカスタマイズしたスーパーコンピュータのCDF(計算空気力学)を駆使しながら、ベストの形を探っていった。
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