――当初は主翼も炭素繊維複合材で作るはずでしたが、途中で一般的なアルミに変更しました。どこに問題があったのですか。
主翼も炭素繊維複合材で作れば確かに軽くはなる。三菱重工は(炭素繊維複合材を採用した)ボーイング787の主翼製造を担っており、それを作れるだけの生産技術も持ち合わせている。ただ、いろいろ調べていくと、リージョナル機のサイズでは主翼を炭素繊維にしても期待していたほどは軽くならないことがわかった。また、炭素繊維で主翼を作るには専用の炉が必要で、設備投資負担が非常に重い。そこで改めて費用対効果を検証し、アルミに切り替えた。途中で変更したことで時間を食ってしまったが、事業としてやる以上はコストに配慮するのは当然のことで、正しい判断だったと思っている。
開発はまだオンゴーイング。改良できる部分は貪欲にやる
――技術以外の面で苦労した点は?
旅客機の開発は初めてなので、お客さんのニーズをしっかり把握する必要があった。エアラインはどんな旅客機を求めているのか、機材選定に際してどこに優先順位を置いているのか、どういった点に配慮すれば整備がしやすいのかなど、お客さんの生の声を聞いてニーズを理解することに多くの時間を割いた。ローンチカスタマー(=最初の導入予定顧客)として開発にも参画しているANAさんをはじめ、海外エアラインからも多くの意見を聞き、できる限り設計に取り入れた。
こうしたヒアリング作業は非常に有意義だった。たとえば、当初の設計では、機体の前部と後部の2カ所に貨物室を作る計画だった。多くの荷物を積めたほうがエアラインに喜ばれるはずと考えたからだ。しかし、エアラインに意見を聞いてみると、その多くは「2カ所だと作業が大変だし、容量自体は後ろの1カ所で十分足りる」と。補助発動機の設置場所にしても整備がしにくいと指摘され、当初の設計から場所を変えた。そうした事例がほかにもたくさんある。
――旅客機の実績がない三菱航空機にとって、燃費などの優れた性能は唯一の武器。しかし、現在の2大勢力であるエンブラエル(ブラジル)、ボンバルディア(カナダ)が大幅なモデルチェンジに踏み切った場合、その優位性がなくなるのでは。
MRJが受注をどんどん増やしていけば、当然、彼らも燃費性能の改善などに動いてくるだろう。しかし、われわれが目指しているのは、あくまで次世代のリージョナルジェット。ライバルが今のモデルに改良を加えたぐらいでは追いつかれない、それだけの高いレベルに目標を設定して開発を進めている。MRJの開発はまだオンゴーイング(現在進行形)。たとえば飛行試験をやったら、考えた以上に頑丈だったとする。だったら、その分、強度を下げてより軽くする、という選択肢も出てくる。量産開始までまだ時間はあるので、より高い性能の実現に向けて、改良できる部分は貪欲にやる。
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