「国債買い入れ」にいそしむ日銀 金融政策で追加的なサプライズは起こせず

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高まっていた期待が一服

それが顕著だったのが10日に内閣府が発表した景気ウォッチャー調査。昨年末から現状、先行き判断DIともに大幅な上昇が見られたが、5月の現状判断DIは前月比0.8ポイント低下の55.7(12年11月は40.0)と、2か月連続で低下した。また、先行き判断DIは、前月比1.6ポイント低下の56.2(同41.9)と、こちらは2カ月ぶりに低下するなど、これまでの上昇基調が一服している。

先行き判断の詳細を見ると、「最近の株価の下落ぶりと金利上昇の影響で将来不安が生じる。アベノミクスの効果がまだ一般的には波及しておらず、効果を実感できていない」(テーマパーク職員)、「株価の急落があったように、今後一本調子で株価が上昇すると考えられず、資産効果だけではなく、ボーナス、給与、雇用など実体経済がよくならなければ、継続的な景気拡大は期待できない」(百貨店営業企画担当)など、5月下旬の株価下落を判断理由に入れるコメントが散見された。

景気ウォッチャー調査の動向について、黒田総裁は「(判断は)短期的な株価の動きよりも、趨勢的な動きに影響されると思う」と述べた。また、「消費者のマインドは経済全体や雇用情勢にも影響される。失業率や有効求人倍率は改善しており、消費者マインドにプラスの影響を与えるだろう」とも説明。短期的な株式相場の変動に金融政策が振り回されないように、予防線を張ったといえる。

4月の会見で、「戦力の逐次投入をせず、現時点で必要な政策をすべて講じた」(黒田総裁)と断言しており、今後は巨額の国債買入れを推し進めるほかない。金融政策で追加的なサプライズを起こすことは難しい状況だ。

アベノミクス3本の矢を構成する成長戦略について、会見で黒田総裁は「戦略を作ったうえで、細部を詰めるとともにタイムリーに実行することが重要」と述べた。しかし、金融政策決定会合で機動的に決定できる政策とは違い、成長戦略の実行には一定の時間を要する。株高で一気に上昇した期待を維持することは容易ではない。消費者マインドの変化が実需の増加として持続するかどうかが、より注目されそうだ。

井下 健悟 東洋経済 記者

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いのした けんご / Kengo Inoshita

食品、自動車、通信、電力、金融業界の業界担当、東洋経済オンライン編集部、週刊東洋経済編集部などを経て、2023年4月より東洋経済オンライン編集長。

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