32歳婚活女子、心に突き刺さる元カレの言葉

東京カレンダー「崖っぷち結婚相談所」<13>

「俺さー、とうとう結婚することになったよー」

『アンダーズ タヴァン』の窓の外に広がる東京の絶景を背に、正木は席に着くなり、何の前触れもなく、突拍子のない報告した。

「いやー、杏子ちゃんのお陰だよー。マジで、ありがとう!」

「は……?」

「俺さ、杏子ちゃんにいろいろ婚活のアドバイスを貰ったじゃん?言う通りにしたらさ、母親がセッティングしたお見合いが、一発で上手く行っちゃったんだよー。俺、一番に杏子ちゃんに報告したくてさー!」

正木は満面の笑顔で、琥珀色のシャンパンを、グイと美味しそうに口にした。それは、折角だからと、杏子から勧めたシャンパンだった。

今日これから始まるはずだった、ロマンチックな展開。その幕開けに相応しい乾杯になる予定だった。「マリちゃんは名古屋の地元の女医さんだからさ、親も喜んでくれてさー。しかもマリちゃん、ちょっと杏子ちゃんに似てるんだよね!お姉さんぽいところが」。

杏子は、全身が硬直してしまったかのようだった。

言葉を発することも、身動きを取ることも出来ない。辛うじて認識できたのは、初めて耳にする「マリ」という名の女は、正木の婚約者だということだけだ。婚約者のことを無邪気に幸せそうに話す正木を前に、杏子はただ、呆然としていた。

ショックで記憶喪失状態の杏子の前に現れたのは...?

人間、本当にショックな出来事があると、記憶が飛ぶようだ。その夜。杏子はふと気づくと、白ワインを片手に、『クチーナ ヒラタ』にて、知樹に熱心に口説かれていた。

「俺、本当に後悔してるんだ。どうして、杏子みたいなイイ女と離れちゃったんだろうって……。あの頃は仕事のことで頭がいっぱいで、俺、狂ってたとしか思えないよ」

虎ノ門で正木と別れ、どのようにして家に帰り、そして、一体どうやってここまで辿り着いたのだろうか。

「しかも、寂しさ紛れに、由香ちゃんとも遊びに行っちゃうなんて、俺が最低だってことは分かってる。でも俺には、やっぱり杏子しかいないよ。離れて確信したんだ。男って、そういう生き物なんだよ」

杏子は、自分の頬に触れてみる。熱い。この白ワインは、何杯目なのだろうか。

「そもそも、杏子と由香ちゃんじゃ、比べものにならないことは、最初から分かってたんだ。ねぇ、杏子……」

知樹は杏子の手をギュッと強く握り、情熱を込めた瞳で真っ直ぐに見つめてくる。こんな精神状態でも、由香より自分の方が良いと褒められると、自尊心が小さく疼き、ほんの少し救われた気がした。

「久しぶりに会って分かったよ。杏子は、本当にイイ女だって」

「うん……」

店を出ると、知樹は杏子をタクシーに乗せ、彼の部屋のある恵比寿へ向かった。知樹の部屋へ向かう杏子。二人はヨリを戻すのか……?!

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