32歳婚活女子、心に突き刺さる元カレの言葉 東京カレンダー「崖っぷち結婚相談所」<13>
元彼との偶然の再会というドラマチックな展開に…
「杏子!」
突然名前を呼ばれ、振り返った先には、元彼の知樹が立っていた。
数ヵ月ぶりの再会であるが、知樹は心なしか、男らしさが増し、大人ぽくなったように見える。自分を振った知樹のことは、ここ最近の忙しい婚活の中で、もうとっくに忘れたつもりでいた。
しかし、杏子は思いがけず、胸が強く締めつけられた。その理由は、皮肉にも、今目の前にある『ジョエル・ロブション』が、去年の11月の杏子の誕生日を知樹と二人でお祝いした、思い出深いレストランであるからなのだろうか。
「杏子……。相変わらず綺麗だね……。何か、女っぽくなった?俺、ちょうど杏子と話したいと思ってたんだ。こんな偶然ってあるんだな。ちょっと話せない?」
育ちの良さが滲み出る品の良い顔立ちに、男らしい低めの声。懐かしい知樹は、切なく優しげな瞳で杏子を見つめている。以前の別れ際、関係がギクシャクしていた頃は、もっと刺々しい冷たい視線を向けられたものだ。
「もう、話すことはないわ」
しかし、咄嗟に杏子の頭をよぎったのは、懐かしさよりも、同期の由香のことだった。万一、知樹の口から「由香と付き合うことになった」なんて聞かされたら、自分はまたショックを受けてしまう。
杏子は逃げるように、足早に恵比寿ガーデンプレイスを歩き始めた。
「待って!俺、杏子のことが、忘れられないんだ!」
知樹の意外なセリフには驚いたが、杏子の足は、何故か止まらなかった。