「ドラフト1位」で成功する人としない人の差 失敗や挫折を糧にできなければ潰れるだけだ

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――中根さんは移籍した横浜で、高校時代の一年後輩である佐々木主浩さんとチームメイトに。そこで38年ぶりのリーグ優勝、日本一に貢献しました。

佐々木が東北高校に入学したころ、背は高いけど細くて、スピードもいまひとつ。でも、そのころから頑固でしたね。プロになってからも、佐々木は自分が師匠を認めた人の意見しか聞きません。先輩でもコーチが相手でも、「聞き流す力」がありました。野球に関してはものすごく頑固。それがよかったのでしょうね。

――中根さんは引退後、横浜でスカウト、コーチをつとめました。特に印象に残っている選手は誰ですか。

ベイスターズの四番打者に成長した筒香嘉智選手(2009年ドラフト1位)です。彼は、普段、すごくかわいいやつなんですが、バッティングについて、コーチが相手でも譲らないところはまったく譲りません。それは、本人なりにしっかりとした考えがあってのこと。コーチとしては「それは間違っているんじゃないか。回り道になるかも」と考えたこともありましたが、最後に決めるのは本人です。理想のバッティングフォームを追い求めるのは大切なこと。彼には、主砲として目指すところがありました。自分の考えを貫いたから、いまの活躍があります。

自分の頭で考えることができるか

――ドラフト1位で指名される選手はもともと素質に恵まれていて、ほとんどが挫折をすることなくエリート街道を進んでいます。しかし、失敗したことのない人は壁にぶち当たったとき、意外ともろいように思います。

最初にいくらいい成績を残しても、頭が固くて意見を聞かない選手はそれなりのところで止まってしまいます。自分で思っているとおりにやれないのに、現状を変えることもできない。これが数年続くとトレードに出されたり、ユニフォームを脱ぐことになったりします。アドバイスを聞かないから、周囲から人が消え、チームで孤立することになります。やっぱり大切なのは頭の柔軟さです。

壁に当たってからまた伸びる選手はみんな、自分の頭で考えて、自分で行動しています。「言われたことだけやる選手」「やらされる選手」にはいずれ限界がきます。いくら力があっても厳しい。いきなりプロでレギュラーになれるのはひと握り。それ以外の選手は失敗して、壁に跳ね返されて、自分に絶望して……そこからがんばるしかありません。

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私はコーチのころから、若い選手には「失敗しろ」と言ってきました。失敗しないとうまくなりませんし、自分が未熟なことを認めないかぎり上達しません。言い古された言葉ですが、「失敗は成功の元」です。それまで失敗しないでやってこられた選手もどこかで絶対に失敗します。失敗の経験や挫折に対する免疫がなければ、そこで潰れてしまうかもしれません。だから、若いうちにどんどん失敗してほしい。

――ただ準備もせずに失敗しても意味はありませんね。

準備をしっかりしたうえでの失敗ならば、そこから何かを学び取ることができるでしょう。「なぜ失敗したか」をしっかり考えてほしい。コーチや指導者はそのときに一緒に考えるのが仕事です。失敗を隠さない、ヘタな自分から逃げない。まわりの人とコミュニケーションをとって、そこからはい上がってほしいと思います。失敗を乗り越える力がある人だけが、成長することができるのです。

元永 知宏 スポーツライター

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もとなが ともひろ / Tomohiro Motonaga

1968年、愛媛県生まれ。立教大学野球部4年時に、23年ぶりの東京六大学リーグ優勝を経験。大学卒業後、ぴあ、KADOKAWAなど出版社勤務を経て、フリーランスに。直近の著書は『荒木大輔のいた1980年の甲子園』(集英社)、同8月に『補欠の力 広陵OBはなぜ卒業後に成長するのか?』(ぴあ)。19年11月に『近鉄魂とはなんだったのか? 最後の選手会長・礒部公一と探る』(集英社)。2018年から愛媛新聞社が発行する愛媛のスポーツマガジン『E-dge』(エッジ)の創刊編集長。

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