「青函トンネル」線路保守は、こんなに大変だ 北海道新幹線の安全運行を影で支える
今回公開された保守作業は締結装置部品の交換であったが、日常的な軌道保守作業は、このほかにも多々ある。例として、軌道関係ではレール削正、レール探傷、軌道狂い(軌間、水準、通り、高低)の修復、レール交換がある。架線等の電気設備、信号関係の項目も多岐にわたる。また、こうした保守の前提となる点検・検査として、East-i(JR東日本の電気・軌道総合試験車)による軌道変位検査を2か月ごと、レール探傷車による超音波検査を年1回、徒歩による総合巡視(線路全般の点検)と列車添乗による巡視も、各々2週に一度のペースで繰り返されている。
さらに、これらの保守点検はJR北海道によるものだが、青函トンネルを建設、保有する鉄道建設・運輸施設整備支援機構によるトンネル本体の健全度測定、追跡調査が行われている。打音検査、目視検査、目地部の漏水防止対策等の日常的な保守点検作業のほか、年に2回の合計80か所におよぶ内空断面測定、そのほか湧水化学分析、コンクリート性状試験や止水注入材の分析等がある。
しかしながら、長大な海底トンネルであり、新幹線と在来線が共用するため、一般的なトンネルにはない困難は多い。第一に、新幹線鉄道であるため列車運行時間帯と保守時間帯が明確に分けられているが、一般の新幹線では深夜0時から朝6時までが保守間合時間とされるところ、貨物列車の運行があるため通常は午前1時から3時半ごろまでの2時間半しかない。新幹線鉄道ではなかった当時、場合によって列車運行時間帯に何らかの作業を行うこともできたが、新幹線特例法の下にある現在では不可能となり、その面でも時間的制約は以前より厳しくなった。
貨物列車ダイヤ調整が必要なケースも
線路に入り込める箇所が限られるため、出入口と作業現場の往復に計1時間程度を要する場合もあり、そのような箇所では実質的な作業時間は1時間半に制約される。さらには、本坑に並行する作業坑は断面が小さく2トントラック程度までしか通行できないため、保守作業に使用する機材運搬に制約を受ける、といった苦労も挙げられる。
ちなみにレール削正車を投入する場合など、通常の2時間半の保守間合時間では不足する大掛かりな作業の際は、 4時間の拡大間合いが設定される。通過予定の貨物列車は運行時刻の調整が行われ、運休等は発生しない。
作業後の仕上がり検査は標準軌、狭軌の両方について行う必要があり、単純計算でも時間を要する。そのうえ、共用レールと新幹線用のレールは新幹線鉄道としての高度な整備基準を満たさなければならず、その面でも在来線のみの時代より手間を要するものとなっている。なお、現在の三線軌区間は貨物列車とのすれ違い時の安全性を考慮して新幹線電車に時速140キロメートルの速度制限が課せられているが、線路の管理精度としては当初から時速260キロメートル走行の基準を満たす形で整備されている。
作業の見学を終えて白符斜坑の入口に戻っても空はまだ暗く、報道各社が現地に赴くために使った車両のライトを点けなければ、足元すら覚束ない。入坑した関係者をピストン輸送する四駆のワゴン車が、地底から急勾配を上がってくる。トンネル内の高い湿度のためにヘッドライトが滲み、それが坑口の鉄扉に切り取られ、その部分だけが四角くSFの世界のように浮かび上がった。
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