「若者の貧困」を招く、精神疾患増加の実態 熟年世代の偏った経験からは理解できない

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現在の若者の「しんどさ」を見る際に、「ジニ係数」(所得や資産の不平等、あるいは格差を測るための尺度のひとつ)や相対的貧困率が高まっていることは、特徴的である。格差が広がり、貧困が広がっている。実際に相対的貧困率を年齢別で見てみると、直近20年の間に、20〜24歳の男女の貧困率が約10%も上昇している。若者の生活困窮や貧困は20年前と比べて、飛躍的に進んでしまった。

努力をすれば報われたのは…

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生まれつき資産の蓄えられた家庭に生まれるか否かによって、「持っている人」と「持っていない人」が固定化している。正社員、非正規社員という働き方によっても、格差は拡大する。

つまり、努力をするかしないかに関係なく、人生の大筋は生まれ持った運で決まってしまい、そこから脱却することは容易ではない。努力で何とかなる、頑張れば報われるという時代ではなくなっているのではないだろうか。

そして、若者の間でもひどい分断がある。同世代でも、相互につらさを分かち合えないということだ。「持っている人」は、幼少期から私立幼稚園・私立小学校に通い、相当な金額を教育投資として受けることができる。当然、周囲は高所得の世帯の仲間たちばかりだから、その友人と関係性を結んでいく。貧困や低所得の境遇などと出会う機会や契機も率先して持たない限りは無縁だろう。

一方で、想像を絶する困難に家庭がすでに直面しており、「持っていない人」は生涯ハンディを抱えることも明らかである。

そして、同じ職場に正社員と非正規社員がいる。同じような仕事をしていても、給与や待遇には相当な違いがある。職場が一体感を持ち、目標に向けて協調していく体制がとりにくくなっている。正社員は非正規社員について、取り立てて配慮する余裕もなく、構造自体が変化することは極めてまれである。同一労働・同一賃金には程遠い状況だ。

社会構造上、はじめから努力ができない環境、努力が報われない環境に置かれていたとしても、金や資産がない若者は、自分の努力が足りなかったからそうなったのだと自分を責めてしまう。そして、金や資産を有する者はひとえに努力の結果でそうなったという旧式の考えがはびこっている。このような悲劇はさらに加速するばかりである。

子どもの相対的貧困率は16・3%(2012年)である。出身家庭が貧困に苦しんでいれば、十分な教育資源にも恵まれずに、大学進学や高等教育を断念せざるを得ない。もはや貧困や格差は固定化し、再生産される様相を見せている。努力や実力でどうにかなるような公正さや平等さは、日本では急速に失われているのだ。

努力や実力を発揮できるような「同じスタートライン」に若者たちを立たせる必要があるだろう。出身家庭の所得の多寡、教育資源の量によって、進学先や将来が決定づけられてしまうことがよいとはまるで思えないのである。

藤田 孝典 NPO法人ほっとプラス代表理事

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ふじた たかのり / Fujita Takanori

1982年生まれ。埼玉県在住の社会福祉士。ルーテル学院大学大学院総合人間学研究科博士前期課程修了。NPO法人ほっとプラス代表理事。聖学院大学客員准教授(公的扶助論、相談援助技術論など)。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員(2013年度)。著書に、『ひとりも殺させない』(堀之内出版)、『下流老人――一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新聞出版)、『貧困世代――社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(講談社)などがある。
 

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