広島の超新星、田中広輔を支える「世界の足」 黒田投手のために!燃えるカープの先頭打者

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しかし、実際、広島のウエーバー順29人目が巡ってきたとき、他球団が続々と回避したことで「田中広輔」の名前が残っていた。

広島田中の誕生は、運命の糸で結ばれていた。今では、ライバル球団を歯ぎしりさせるほどの活躍で、すっかり「1番ショート」に定着する。広島名物「タナキクマル」と称され、2番菊池涼介、3番丸佳浩と並ぶ若手の有望株として育った。

もともと3拍子そろったタイプだが、とりわけ急成長を遂げたのは「走」の部分だ。2年目の昨シーズンは6盗塁にとどまったが、背番号が「63」から「2」に変更された今季は28盗塁まで伸びた。

セ・リーグで盗塁王に輝いたヤクルト山田哲人の30盗塁に迫るレベルアップをみせた裏には、ある変化があったのだ。

盗塁激増の背後にあった変化

田中は昨年12月、大手スポーツメーカー「アシックス」(本社=神戸市中央区)とアドバイザリー契約を結んだ。そこでもっともこだわったのがスパイクの改良だった。昨オフ、田中は同社の「スポーツ工学研究所」(神戸市西区)を訪れた。ここではトップアスリートの身体の動きを科学的なデータ分析によって独自に計測しながら、よりフィットする用具を開発している。

かつては、2000年シドニー五輪女子マラソンの金メダリスト高橋尚子、04年アテネ五輪女子マラソン金メダリスト野口みずきのシューズが、最近も今年リオデジャネイロ五輪男子陸上400㍍リレーで銀メダルを獲得した桐生祥秀のシューズが、この研究所で発案、製作された。

田中を担当するアシックス社ベースボールマーケティング部・佐々木邦明氏は「もっとも強調されたのは『土を感じることのできるスパイクを作ってほしい』ということでした。より土を噛むという意味です」と説明する。

これまでの田中は、通常のプロ仕様タイプでオーソドックスなスパイクを使用していた。しかし、世界を代表するトップアスリートと同じように、ミリ単位で立体的な足のスキャンから、かかと、関節の角度、足首の柔軟性、左右の脚長型など、緻密な測定によって解析された上で、田中型の特別なスパイクが生まれた。

具体的には、昨季まではかかと部分を高くしたスパイクだったが、ニューモデルは足底と地面の接地面をフラットにした独自のものが完成された。天然芝を本拠にするマツダスタジアムとの相性も良く、広島の切り込み隊長は〝世界の足〟を手に入れたことで盗塁数を約5倍増にアップさせ、プレーのリズムを作ったといえる。

担当する佐々木氏も「今年は特に集中力がすごい。試合前は声もかけられない雰囲気が伝わってくる。今までより土を蹴る感じが軽くなって、1歩目のスタートが鋭くなった」と新スパイクの効果を口にする。

短期決戦ではラッキーボーイの存在は欠かせない。広島か、日本ハムか――。赤ヘルの「神ってる男」が、頂上決戦でも、打って、守って、走ってのベストパフォーマンスを披露すれば、32年ぶりの日本一に向けた大きなアドバンテージになる。

寺尾 博和 日刊スポーツ新聞社大阪本社編集委員

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てらお ひろかず / Hirokazu Terao

てらお・ひろかず 日刊スポーツ新聞社大阪本社編集委員。阪神、近鉄、南海、ダイエーなどを担当、野茂英雄のメジャー行きから現地に派遣される。2004年球界再編を取材、2008年北京五輪、09年WBCなど国際大会などで日本代表チームのキャップを務める。現在は主に東京五輪での野球ソフトボール復活を取材中。ミニストップ社とコラボでオリジナルスイーツ作り、オリジン社と弁当開発を手掛けて全国発売するなど、異色の名物スクープ国際派記者。大体大野球部出身。福井県あわら温泉生まれ。趣味はスポーツ、歌舞伎、舞台鑑賞。毎週木曜日にABC朝日放送「おはようコール」のコメンテーターとしてレギュラー出演。

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