原発被害の地から「医療の未来」を創り出す 新世代リーダー 原澤慶太郎 南相馬市立総合病院医師

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オムロンとの連携による実証実験として、NTTドコモの3G回線を利用した血圧測定事業も実施。これはかかりつけの医師が患者の健康状態を常時把握することで、脳卒中死亡率の増加を食い止めることを狙いとしている。

傍観者ではなく、実践者として活躍

在宅医療を手掛ける医師や訪問看護ステーション、ケアマネジャーなどとの連携による「相双ホームケアネットワーク」の立ち上げや、病院主催のラジオ体操……。原澤が関わる13もの事業のうちで特筆されるのが、中高年男性の生きがいを創り出すことを目的とした事業「HOHP」(頭文字を取って、「ひきこもりの(H)おとうさん(O)を引き寄せよう!(H)プロジェクト(P)」の意味)だ。

仮説住宅住民からは、絶大な信頼。「南相馬に来て本当に良かった」。

これは在宅診療部の呼びかけにより、市内の建設・木工所関係者や社会福祉協議会の協力を得て、男性の手で木製の机を製作するプロジェクトだ。4月9日にはできあがった机を市内小高区役所に設けられたコミュニティカフェに納入。桜井勝延市長も贈呈式に立ち会った。

地元の自動車教習所の経営者とは、被災地で学ぶ意思のある教習生を全国から呼びこむプロジェクトの実現に向けて打ち合わせを重ねている。

日夜、仕事に奔走する原澤は現在、まとまった休みを取ることは難しい。休日ともなると全国から求められて講演に出向く。「訪れた場所でおいしい料理をごちそうになることが息抜き」と原澤は語る。

原澤には気負いや悲壮感はない。「今の仕事はとても好き。南相馬に来て本当によかったと思う」。

心臓外科医時代は手術に明け暮れる毎日だっただけに、地域医療分野に転じた際は同僚の外科医から驚きの目で見られた。一方、それまでとは180度異なる現在の仕事の内容を説明すると、「社会派」としての一面を知る大学時代の仲間からは「福島での活動はいかにも原澤らしいな」と口々に言われた。傍観者ではなく実践者たろうとする原澤の活躍のフィールドは、無限に広がっている。 (敬称略)

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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