日本の国債市場の混乱は、もっと激しくなる バーナンキ議長が、QE3の縮小を示唆したら要注意

拡大
縮小

5月16日現在ではやや落ち着きが出始めたが、もし市場が鎮静化しない場合は、5月21~22日の金融政策決定会合で日銀が国債市場安定化策を発表する可能性が出て来る。

国債の購入を増額すれば、日銀は出られなくなる

例えば、日銀は今年、保有長期国債を51兆円増加させる予定だが、その範囲内で購入を前倒しして、一時的に増額させて、市場の国債売り圧力を吸収しようとするかもしれない。ただし、そういった政策が円安を招くことがあると、国債に新たな売り圧力が発生する恐れがあるだけに、実施の見極めは難しい。共通担保資金供給オペの最長期間を2年に延ばして、市場に安心感を与えるという手も考えられる。

とはいえ、そのような対策で国債市場の動揺がいったんは落ち着いても、国債市場の流動性が低い環境は継続する。何かの材料で金利上昇圧力が現れると、それがきっかけで国債の金利が再び暴れ始める可能性は今後もある。

その度に日銀が市場鎮静化のために国債買入れオペを増額していったら、市場はどこかの段階で「日銀の国債購入はどこまで膨張するのか?これはマネタイゼーション(財政赤字の貨幣化)ではないか?」と疑心暗鬼になるだろう。そうすると長期金利の上昇はさらに激しくなる恐れが出てくる。

ひとたび、そうした観測が台頭したら、日銀はさらに国債購入を増額して金利上昇を抑え込みに行かねばならなくなり、この一連の政策は「ホテルカリフォルニア」化してしまう(つまり、一度入ったら出られなくなる)。そういった事態を避けるためにも、政府は中長期的な財政再建方針をしっかりと打ち出さなければならないのだ。

今回の国債市場の動揺のきっかけのひとつは米国の雇用統計、小売販売統計の改善による「QE3減額の前倒し観測」が台頭したことだ。先行き、実際にバーナンキFRB議長がその開始を示唆したら、日本国債市場の混乱はより激しくなる恐れがあるだけに注意が必要である。

 

加藤 出 東短リサーチ社長

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かとう いずる / Izuru Kato

1988年、横浜国立大学経済学部卒業、東京短資入社。金融先物、CD、CP、コールなど短期市場のブローカーとエコノミストを2001年まで兼務。02年2月よりチーフエコノミスト。13年2月より東短リサーチ代表取締役社長。短期金融市場の現場から各国の金融政策を分析。『日銀は死んだのか?』『バーナンキのFRB』『日銀、「出口」なし! 異次元緩和の次に来る危機』  など著作多数

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