配偶者の法定相続分引き上げには「落とし穴」 「3分の2」に改正されるとトータルで損
今回の見直し議論は、2013年の最高裁判決がきっかけだった。法律上の婚姻関係にない男女から生まれた子(非嫡出子)の法定相続分を、法律上の婚姻関係にある男女から生まれた子(嫡出子)の2分の1と定めた民法の規定が憲法違反だとされた。
これに対して自民党内から反発が出たと、弁護士の丸山和也参議院議員は話す。
「家族制度を守るべきという保守派から『結婚した妻や子の権利を守れ』という意見があった。しかし、判決を無視するわけにもいかず、党内に委員会が立ち上がった」
80年に2分の1に
自民党保守派は、非嫡出子の取り分が2分の1として認められると、婚姻届を出している妻の取り分が減ってしまうと考えた。そこで出てきたのが、妻の法定相続分を2分の1から3分の2に引き上げる案だ。法定相続分は1980年に3分の1から2分の1に引き上げられて以来、変更されていない。
法務省の相続法制検討ワーキングチームメンバーの一人、明治大学大学院法学研究科の村上一博教授はこう解説する。
「私有財産には結婚前からあった固有財産と、結婚後に2人でつくった共有財産がある。固有財産は先祖代々の土地も含まれるから、子どもに多く残してもいいが、共有財産は配偶者の取り分を増やすべきという考え方がある。しかし、財産を二つに分けると計算が複雑になる。それで、配偶者に一括して半分より多めにするなら3分の2だろうということになった」
もっとも、配偶者が再婚すれば、旧家などは打撃を受けるという意見も出た。このため、婚姻期間は20~30年という条件を付けることも議論されている。
配偶者の相続分引き上げが実現すれば、注意しなくてはいけないのは相続税の総額だと警告するのは、税理士の内田氏だ。
「父親が亡くなり、母親と子どもが残る場合、母親と子どもが相続人ですが、これが一次相続。その後、母親が亡くなり、母親の財産を子どもたちだけで相続するのが二次相続。相続税は、一次と二次のトータルで考えなければいけない。配偶者の法定相続分が引き上げられたからといって、一次のときに、単純にその通りに分けてしまうと、一次、二次トータルでの相続税が高くなる可能性がある」
現行民法のもとでも、二次相続では一次相続と比べて、税額が大きくなる傾向がある。一次では、配偶者の税額軽減があり、小規模宅地等の特例も使えることが多いが、二次では、使えないケースが多い。また、二次では法定相続人が1人減るので、基礎控除額が600万円減り、かつ、適用される税率も高くなる可能性がある。